科学者を魅了し続ける古くて新しい「三体問題」 その解法の鍵とは?
2つのブラックホールの衝突によって生じる重力波のイメージ画像。この現象はアインシュタインの一般相対性理論によって説明され、現代的な「三体問題」の一例でもあります。(Credit:NASA Goddard)

17世紀の終わり頃、ニュートン(Isaac Newton、1642-1727)は「万有引力の法則」を発見し、太陽の周りの惑星の動きを理論的に説明することに成功しました。これにより、ケプラーの法則が理論的に裏付けられました。

2つのブラックホールの衝突によって生じる重力波のイメージ画像。この現象はアインシュタインの一般相対性理論によって説明され、現代的な「三体問題」の一例でもあります(Credit: NASA Goddard)
【▲ 2つのブラックホールの衝突によって生じる重力波のイメージ画像。この現象はアインシュタインの一般相対性理論によって説明され、現代的な「三体問題」の一例でもあります(Credit: NASA Goddard)】

三体問題の誕生

ニュートンはさらに、地球の衛星である月の動きを説明しようとしました。しかし、月の運動は地球と太陽の両方の影響を受けます。地球と太陽だけであれば二つの物体の関係(「万有引力の法則」に帰着する「二体問題」)となりますが、月が加わることで三つの物体の非常に複雑な動きを予測することになり、数学的な解法も難しくなることが知られています。これが「三体問題」です。

三体問題の複雑さとカオス

三体問題では、二つの物体の規則的な動きに三つ目の物体を加えることで、不規則で複雑な動きが生じることが知られています。

結果的に、ニュートンは三体問題の一般的な数学的解法を得ることはできませんでした。つまり、三体問題を定義するのは簡単ですが、解くのは極めて難しいということです。

カオスは「混沌」と訳されることがありますが、それは「ランダム」(でたらめ)を意味しません。簡単に言えば、方程式にある数値を代入した場合、その数値のわずかな違いが、最終的な解に途方もなく大きな差を生むことがあるということです。

歴代の数学者たちの挑戦

その後、三体問題はオイラー(Leonhard Euler、1707-1783)、ラグランジュ(Joseph-Louis Lagrange、1736-1813)、ヤコビ(Carl Gustav Jacob Jacobi、1804-1851)、ポアンカレ(Jules-Henri Poincaré、1854-1912)などの天才的な数学者、科学者に受け継がれ、現在も数学者や科学者たちがその謎の解明に挑戦し続けています。

現代の研究と新たなアプローチ

2021年4月12日、「Celestial Mechanics and Dynamical Astronomy」に発表されたヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)Racah Institute of PhysicsのBarak Kol教授が率いるグループによる新しい研究は、ニュートンから始まったこの科学の旅に新たな一歩を加え、科学的予測の限界とその中でのカオスの役割について触れています。

新しいアプローチの目新しさを理解するためには、物理学のすべての統計理論の根底にある「位相空間」の概念を理解し、議論する必要があります。物理学における位相空間とは、システムを構成する粒子(質点)の位置と速度を記述した空間を意味しています。この研究は、以前の理論の根底にある基本的な概念の再検討によってなされました。

また、20世紀になってコンピュータが開発されたことにより、物体の動きはコンピュータシミュレーションの助けを借りて再検討することも可能になりました。このような古い問題の基礎であっても、技術革新の寄与が可能であることがわかりました。

浅田秀樹博士の見解

最近、『三体問題』(講談社ブルーバックス)を上梓した弘前大学教授の浅田秀樹博士は、三体問題の難しさについて次のように述べています。

「明治時代、日本から米国への移動手段は何週間もかかる船旅しかありませんでした。20世紀になると飛行機が登場して、今では出発したその日のうちに、日本から米国に移動することが可能になっています。その飛行機を用いても、人類は月までは行けません。しかし、人類はロケットを開発し、月に到達できるようになりました」

さらに続けて、「このように、手段を変えれば、到達できる範囲も変わってきます。同様に、数学の世界でも許される数学的操作への制限・条件を変更すれば、その数学理論が適用できる範囲も変わってくるのです。その結果として、ある問題が解けるか解けないかということが、前提とする数学的条件や手法に依存することがあります」

つまり、「目的地にたどり着けるかどうかは、手段に依存する」のです。そこに三体問題の解法の鍵があると言えるでしょう。

アインシュタインの一般相対性理論と三体問題

アインシュタインの一般相対性理論が登場したことにより、三体問題は純粋に数学的・理論的な問題や古典的な天体力学の領域から脱し、重力波が観測された連星ブラックホールの問題など、天文学(宇宙物理学)的にも重要性が増しています。浅田博士も「アインシュタインの一般相対性理論を使って、宇宙における新しい物質やエネルギーの探求を行う研究」に取り組んでいる科学者の一人です。

また近年、三体問題をテーマにした中国発のSF小説『三体』も大きな話題を呼んでいます。

結論

古くて新しい「三体問題」は、宇宙における新たな現象の発見を受けて、今後も科学者を魅了し続けるに違いありません。

 

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Source

文/吉田哲郎