こちらは「ろ座(炉座)」の一角にある「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド(Hubble Ultra Deep Field: HUDF)」で観測された銀河のペアを拡大した画像です。
注目は、拡大画像の注釈で示されている活動銀河核(Active Galactic Nucleus: AGN)の輝きです。これは質量が太陽の数百万~数十億倍以上に達する超大質量(超巨大)ブラックホールの存在を示唆しています。活動銀河核とは強い電磁波が放射されている銀河中心部の狭い領域のことで、ブラックホールに引き寄せられた物質がらせんを描くように落下していく過程で形成した高温の降着円盤から、可視光線やX線といった強力な電磁波が放出されていると考えられています。
ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドは、アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)の「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」が観測した幅約3分角(満月の視直径の10分の1程度)の領域です。2003年9月から2004年1月にかけて行われた最初の観測では総露光時間が11.3日間に及び、約130億~10億年前に存在した約1万個の銀河が捉えられました。ハッブル宇宙望遠鏡はその後も2023年までに同じ領域を何度か観測しています。
今回、ストックホルム大学のMatthew Hayesさんを筆頭とする研究チームは、銀河とブラックホールの進化の関連性をより深く理解するために、度々観測されたハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドのデータから初期宇宙の銀河に存在した超大質量ブラックホールの捜索を試みました。
ハッブル宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、ブラックホールは周囲の物質を断続的に取り込むため、ブラックホールの活動が原動力となっている活動銀河核の明るさにはちらつきが生じます。数年以上の間隔を空けて取得されたハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドの観測データを比較することで、銀河の明るさの変化を検出し、間接的にブラックホールを見つけようというわけです。
分析の結果、研究チームはこれまでの研究で報告されていたよりも多くの超大質量ブラックホールが初期宇宙に存在していたことを突き止めました。冒頭の画像で示された活動銀河核は今回の研究で見つかった超大質量ブラックホールの証拠の一例で、約104億年前(赤方偏移z=2)の宇宙に存在していたとみられています。
超大質量ブラックホールは約138億年前のビッグバンから10億年と経たない時期にはすでに幾つかの銀河に存在していたと考えられていますが、初期の宇宙でこれほど質量の大きなブラックホールが形成されたプロセスはまだはっきりとはわかっていません。
ハッブル宇宙望遠鏡による新たな観測結果からは、その一部について、宇宙の最初期にだけ存在した非常に大質量の初代星(ファーストスター)がビッグバンから10億年以内に崩壊することで誕生したブラックホールが“種”となることで形成された可能性が示唆されるといいます。
超大質量ブラックホールに成長する“種”となるブラックホールの誕生については、この他にもガス雲の直接崩壊による形成といった可能性が挙げられています。今回の研究で示された初期宇宙のブラックホール形成に関する新たな情報は、より正確な銀河形成モデルの構築につながると期待されています。
冒頭の画像はSTScIをはじめ、NASAやESAから2024年9月17日付で公開されています。また、研究チームの成果をまとめた論文はThe Astrophysical Journal Lettersに掲載されています。
Source
- STScI - NASA's Hubble Finds More Black Holes than Expected in the Early Universe
- NASA - NASA's Hubble Finds More Black Holes than Expected in the Early Universe
- ESA/Hubble - Hubble finds more black holes than expected in the early Universe
- Hayes et al. - Glimmers in the Cosmic Dawn: A Census of the Youngest Supermassive Black Holes by Photometric Variability (The Astrophysical Journal Letters)
文・編集/sorae編集部