今から6600万年前の白亜紀末、現在のユカタン半島北端に衝突した直径十数kmとも推定される天体は、当時の生物の7割以上に及ぶ大量絶滅の原因として有力視されています。この衝突によって形成されたチクシュルーブ・クレーターの研究を通して、天体衝突が生命の誕生に影響していた可能性を示した研究成果が発表されています。
■チクシュルーブ・クレーターの底では広範囲に渡る熱水活動が100万年ほど続いていたとみられる
David Kring氏(LPI:アメリカ月惑星研究所)、山口耕生氏(東邦大学)らの研究チームは、2016年にユカタン半島沖合の海底から採取したサンプルを分析した結果、チクシュルーブ・クレーターの海底下において天体衝突から100万年以上の期間、約14万平方kmという広範囲に渡って熱水活動による影響が継続していた証拠が得られたと発表しました。
研究チームによると、採取されたサンプルからは微生物による代謝活動があったことを意味する鉱物が見つかっており、クレーターの内部では好熱菌や超好熱菌が存在できる摂氏50度~120度という温度条件が、場所によっては数万年~数十万年に渡って維持されていた可能性が示唆されるといいます。
天体衝突からそう時間が経っていないクレーター内でもその環境に適した微生物が生存していたことがわかりますが、このことは地球における生命の誕生にも関わる発見となるかもしれません。
生命が誕生する前の地球では、後期重爆撃期と呼ばれる天体衝突の頻発した時期があったと考えられています。発表では、約38億年前以前の地球では直径10km以上の天体による衝突が約6000回発生していたとする推定値をあげつつ、初期の地球における無数の天体衝突が生命に必要な環境を提供した可能性に言及。熱水による変質作用で形成された鉱物がRNA(リボ核酸)合成時の触媒として働いたり、始原的な生態系のエネルギー源となる水素を発生させていたりしたかもしれないとしています。
これまでの研究により、天体衝突によってアミノ酸、塩基、糖などが地球にもたらされた可能性が指摘されています。こうした生命の材料となる物質だけでなく、生命活動を支える環境もまた、天体の衝突によって初期の地球にもたらされていたのかもしれません。
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Image Credit: Victor O. Leshyk
Source: 東邦大学 / USRA
文/松村武宏