欧州宇宙機関(ESA)は9月13日、X線や電波だけでなく光でも明滅するミリ秒パルサーを初めて発見したとするAlessandro Papitto氏らの研究成果を発表しました。
研究内容は論文にまとめられ、9月9日付でThe Astrophysical Journalに掲載されています。
■1.69ミリ秒ごとに1回自転するパルサー「PSR J1023+0038」
パルサーとは、恒星の超新星爆発によって誕生した高密度の中性子星のうち、電波、光(赤外線や紫外線も含む)、X線といった電磁波がパルス状に観測されるものを指します。
このような中性子星では、自転軸に対して磁軸が傾いていると考えられています。地球から見ると、磁極の方向に放出された電磁波のビームが自転周期に合わせて点滅しているように観測されることから、パルサーと呼ばれるようになりました。
今回の観測対象となったパルサー「PSR J1023+0038」は、1秒間に600回近くも自転しています。その周期はおよそ1.69ミリ秒で、パルサーのなかでも自転周期が極めて短いミリ秒パルサーに分類されています。
また、このパルサーは太陽のおよそ5分の1の質量を持つ伴星を従えて連星を形成しており、伴星からパルサーに流れ込んだ物質によって周囲に円盤が形成されているとみられています。
過去の研究において、PSR J1023+0038ではX線または電波を放出する期間が交互に入れ替わることが確認されています。円盤からパルサーに物質が降着しているときにはX線が放出され、降着していないときには磁場からの電波が観測されているものと考えられてきました。
自転周期が短いミリ秒パルサーは、自転周期が長い(といっても秒単位なのですが)パルサーが伴星からの物質の降着を経て進化したものと考えられており、PSR J1023+0038のようにX線と電波を交互に放出するパルサーはその過渡期にあたる天体として注目されています。
■X線と同期して明滅する光をミリ秒パルサーでは初めて観測
今回Papitto氏らの研究チームは、ESAのX線観測衛星「XMM-Newton」やカナリア諸島にあるイタリアの「ガリレオ国立望遠鏡(TNG)」などを使い、PSR J1023+0038をさまざまな波長で観測しました。その結果、ミリ秒パルサーとしては初めて、光(可視光線)の波長で明滅していることが判明したのです。
ただ、この事実は研究チームを悩ませることになります。観測データを詳しく分析したところ、光とX線が同時に明滅していることが明らかになりました。これは光とX線が同じ仕組みによって放出されていることを示唆しますが、X線を生じる原因とされてきた円盤からの物質の降着によって生み出されたにしては、観測された光は明るすぎたのです。
そこで研究チームは、光とX線が同時に観測された理由を説明するために、パルサーから放たれる「パルサー風」(電子とその反粒子である陽電子の流れ)に由来する新たな理論モデルを構築しました。
このモデルでは、パルサーから放出されたパルサー風が円盤に吹き付けられることで、強力な電磁波(シンクロトロン放射)が生じるとしています。この電磁波は光とX線の双方で観測できるため、今回の観測結果と矛盾しません。また、円盤の物質はパルサー風によって降着を妨げられ、表面から100km程度の距離にまでしか接近することができないとされています。
なお、今回の研究で提唱された理論モデルではX線よりも光のほうが数百マイクロ秒(十分の数ミリ秒)だけ遅れて観測されるはずだとしていますが、今回の観測においてこの遅れは確認されていません。Papitto氏は理論モデルを裏付けるために、今後はこの遅れを正確に検出する必要があるとコメントしています。
Source
- Image Credit: ESA
- ESA - MYSTERIOUSLY IN-SYNC PULSAR CHALLENGES EXISTING THEORIES
文/松村武宏