NASAとESA(欧州宇宙機関)は7月11日、イタリアのStefano Bianchi氏をはじめとした国際研究チームのハッブル宇宙望遠鏡を使った観測によって、活動レベルの低い活動銀河の超大質量ブラックホールにも予想に反して降着円盤が存在したとする研究結果を発表しました。
銀河のなかには、中心付近の非常に狭い領域から強い電磁波を放つものがあります。こうした銀河のことを活動銀河と呼び、活発な中心部は活動銀河核と呼ばれています。
そんな活動銀河にも幾つかの種類があります。遠方銀河の観測でよく話題に上るクエーサーは、特に活動レベルが高いものの一つ。その反対に、それほど活発には電磁波を放っていない、活動レベルの低い活動銀河も存在します。
今回の研究で観測対象となった渦巻銀河「NGC 3147」は、地球からは「りゅう座」の方向およそ1億3000万光年先に存在しています。NGC 3147は「セイファート銀河」という活動銀河に分類されていますが、中心に存在するとされる超大質量ブラックホールはガスや塵などの物質をあまり捕獲できておらず、その活動レベルは活動銀河核としては低い状態にあります。
クエーサーのように活動レベルが高い活動銀河核では、ブラックホールに落下する物質によって降着円盤が形成されます。いっぽう、活動レベルが低いNGC 3147のような銀河の超大質量ブラックホールの場合、周囲の物質の量が少ないことから平らな降着円盤は形成されず、ドーナツのように膨らんでいるだろうと考えられてきました。NGC 3147が観測対象に選ばれたのも、この予想を裏付けることが目的だったのです。
ところが、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」を使ってNGC 3147の中心部分を詳しく調べた結果、光速の10%以上で回転する非常にコンパクトな降着円盤が観測されました。活動レベルや規模は異なりますが、まるでクエーサーの周囲にあるのと同じような降着円盤が存在していたのです。
これはまったく予想外の発見だったようで、Bianchi氏は「活動レベルが微弱な活動銀河に対する従来の予測は明らかに誤りでした」とコメントしています。
そんなNGC 3147の降着円盤は、あまりにもブラックホールに近いところに存在しているため、そこから放たれた電磁波は非常に強い重力によって波長が伸びてしまい、可視光線では赤っぽく輝いて見えます。これは一般相対性理論で説明される現象です。
また、回転速度が非常に速いため、降着円盤の回転方向が地球に向かってくる側からの光は強くなり、遠ざかる側からの光は弱まって見えます。これは「相対論的ビーミング」と呼ばれる現象で、特殊相対性理論で説明することが可能です。
研究チームに衝撃を与えたNGC 3147の超大質量ブラックホールとその降着円盤は、アインシュタインの一般相対性理論と特殊相対性理論、両方の効果を同時に見せてしまうほどの強烈な個性の持ち主だったようです。
今回の発見を踏まえて、研究チームは、同種のコンパクトな降着円盤をさらに見つけるために、活動銀河に対するハッブル宇宙望遠鏡を使ったさらなる観測を希望しています。
Image Credit: ESA/Hubble, M. Kornmesser
https://www.spacetelescope.org/news/heic1913/
文/松村武宏