土星の環と衛星ミマス (c)NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

 

土星を彩る環は、従来考えられていた「45億年前の太陽系初期に形成された」という説を大きく覆し、ほんの2億年前にできた可能性がある--2017年9月に最後の科学観測「グランドフィナーレ」を行って観測を終了したNASAの土星探査機「カッシーニ」の成果からそうした説が浮上した。12月11~15日に開催されたアメリカ地球物理学連合(AGU)の秋季大会で発表され、『サイエンス』誌が報じた。

土星には7つの環があり、内側から順にD、C、B、A、F、G、Eとアルファベットの名がつけられている。この環の中で主要な部分を占める「Bリング」と呼ばれる部分は、全体で大きな質量を持つと考えられ、それだけの環の材料を供給できるのは、45億年前の太陽系初期に数多く存在した微惑星だとされてきた。あるいは、40億年前に「後期重爆撃期」と呼ばれる太陽系内の天体の軌道が不安定になった時期に、惑星サイズにはならなかった天体が大きく移動して土星のような大型の惑星の近くを通過し、破壊されたことで環の材料となった説もある。

今回、カッシーニの観測成果から得られたBリングの形成時期に関するエビデンスは二通りある。ひとつは環の質量に関するものだ。これまで、見通しにくく密度が高いために質量が大きいと考えられ、土星の衛星「ミマス」を越える質量があると考えられてきた。だが、ローマ・ラ・サピエンツァ大学のルチアーノ・イエス博士によれば、カッシーニがミッション最後に土星と環の間を22回通過して観測した成果からすると、Bリングの質量は衛星「ミマス」の4割程度だという。環の質量と年代の間には関係性があり、「環は土星と共に形成されたのではないことは明らかです」とイエス博士は述べている。

土星と環の間を通過、観測するカッシーニ(想像図) (c)NASA/JPL-Caltech

 

もうひとつのエビデンスは、太陽系辺縁部から土星めがけて降り注ぐ微小な流星塵にある。多くの流星塵が飛来すると、多くが氷でできた土星の環は暗く汚れていく。カッシーニに搭載された宇宙塵分析器の12年にわたる観測では、土星に飛来する流星塵はこれまで考えられていたものの10倍もあることがわかった。環の年代が古ければもっと暗く汚れているはずだ。だが、現在も土星の環は明るく輝いて見え、そのことから環の年齢は1億5000年前から3億年前と推測された。

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環の質量と流星塵の量、ふたつのエビデンスを総合して考えると、およそ2億年前に土星の環が形成されたという可能性が高いという。この時期に環の材料を供給した源として、土星の圏内に入ってきた彗星または小惑星が土星の衛星と衝突して軌道上に環の材料となる物質を残した、または衛星の軌道が変動して土星の重力により崩壊し、環の材料となったことが考えられている。2億年前という説に対し、「恐竜の時代に天文学者が空を見上げても、むき出しで見栄えのしない土星しか見えなかっただろう」とサイエンス誌はコメントしている。

「土星の環は土星そのものよりかなり新しい」という説は、実は1980年代に2機のボイジャー探査機の観測成果からも提唱されたことがある。だが当時は、「太陽系初期に比べて環の材料となる彗星や小惑星が太陽系内にはるか少ない時期に、どうやって土星の環が形成されたのか?」という疑問に対し、「土星の衛星のひとつが崩壊して環の材料となった」というシナリオを提示することができなかった。13年にわたるカッシーニの観測成果は、土星研究の新しい時代を切り開いたといえる。

 

参考文献

Science Vol 358|Saturn's rings are solar system newcomers

http://science.sciencemag.org/content/358/6370/1513.full

 

神戸大学|土星の輪、誕生の謎を解明

http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/research/2016_10_17_01.html

 

月探査情報ステーション|カッシーニ/ホイヘンス (Cassini / Huygens)

https://moonstation.jp/challenge/pex/cassini

 

『惑星地質学』東京大学出版会

 

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