ロシアは12月23日、新型のアンガラA5ロケットの1号機、アンガラA5-1LMの打ち上げに成功した。アンガラ・ロケットが打ち上げられたのは今回が2機目だが、大型ロケットの構成で、かつ衛星を軌道まで運んだのは今回が初となる。アンガラA5は旧式化しつつあるプロトンMロケットを代替する機体として開発が進められており、実現に向けて大きな一歩を踏み出した。

アンガラA5-1LMはモスクワ時間2014年12月23日8時57分(日本時間2014年12月23日14時57分)、ロシア北西部アルハーンゲリスク州にあるプレセーツク宇宙基地の35/1発射台から離昇したロケットは順調に飛行し、打ち上げから約12分後に、アンガラA5-1LMから上段のブリーズMが分離された。

その後ブリーズMは、4回に分けた燃焼を行い、打ち上げから約9時間後の23時57分に目標の静止軌道に到達した。ブリーズMの先端には、人工衛星を模した質量2,000kgの重りが搭載されており、両者はくっついたまま、この後静止軌道を離れて、他の静止衛星の邪魔にならないように、より高い軌道(俗に墓場軌道と呼ばれている)へと移る予定だ。

アンガラA5はロシアのフルーニチェフ社が開発したロケットで、今回が初飛行となった。また今回は特別にアンガラA5-1LMという名前が付けられおり、1LMとは「1番目の打ち上げ機=1号機」を意味するロシア語(Первая лётная машина)から取られている。なお開発を担当したフルーニチェフ社ではアンガラA5.1Lという名前で呼ばれており、表記に揺れが見られる。

アンガラ・ロケットは、アンガラはフルーニチェフ社が開発したロケットで、第1段の装着本数や、上段を変えることで、多種多様な衛星の打ち上げに対応できるようになっており、いずれは現在運用されているロコットやプロトン、ゼニートといったロケットの後継機になる予定だ。

その最小構成であるアンガラ1.2は、今年7月9日に初飛行に成功しているが、軌道には乗らないサブオービタル飛行であったため、アンガラが軌道速度を出し、本当の意味で宇宙ロケットとして飛行するのは今回が初めてとなった。

アンガラA5は、アンガラ・ロケット・ファミリーの中でも重量級の機体で、現在運用されているプロトンMロケットとほぼ同じ打ち上げ能力を持ち、いずれは代替する予定となっている。プロトンMは近年打ち上げ失敗が増えており、また毒性のある推進剤を使っていることや、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地以外からの打ち上げができないこともあり、ロシアでは早ければ2020年にも、プロトンMからアンガラA5への代替を行いたいとしている。

アンガラA5はその強大な打ち上げ能力を実現するため、アンガラ1.2の第1段(URM-1)を囲むように、URM-1をさらに4基装備しており、見るからに力強い格好をしている。この4基のURM-1を第1段、そしてアンガラ1.2では第1段と呼ばれてた中央部分を第2段とし、その上に第3段のURM-2が載り、さらにその上にブリーズM、もしくはKVTKと呼ばれる上段が搭載される。

打ち上げ能力は、地球低軌道であれば24,500kg、近地点高度5,500km、軌道傾斜角25度の静止トランスファー軌道ではれば、ブリーズM使用時は5,400kg、KVTKでは7,500kgを投入できる。また静止軌道への直接投入であれば、ブリーズMで3,000kg、KVTKでは4,600kgという能力を持つ。さらに有人宇宙船打ち上げ用に改修が施された、アンガラA5Pの開発も行われている。

アンガラという名前は、ロシア中東部を流れるアンガラ川に由来している。アンガラ川は総延長が1,779kmもあり、日本一長い川である信濃川の実に5倍近い長さを持つ。そして名は体を表すかのごとく、アンガラロケットの開発もまた、長きに渡るものになった。

ソ連時代に開発されたロケットや宇宙船の部品のいくつかは、現在のウクライナとなる地域で生産が行われていた。そのため1991年のソ連崩壊後は、ロシアがウクライナから購入することでロケットや宇宙船の運用を続けてきている。だが、こうした他国に依存する体制はロシアにとって望ましいことではなく、実際ウクライナはロシアに対して、部品の金額を吊り上げるようになってきた。

そこでロシアではソユーズロケットの電子機器をロシア製にしたソユーズ2や、同じくプロトンロケットの電子機器をロシア製にしたプロトンMなどを開発したが、エンジン以外はウクライナで製造されるゼニートではそうした小細工も効かない。またそもそも、ソユーズやプロトンの設計は古くなっており、まったく新しいロケットも求められていた。

ロシア政府は早くも1992年9月15日に、アンガラを開発するとの決定を下す。1994年8月12日には、開発業者にフルーニチェフ社が選ばれた。

1999年のパリ航空ショーには、フルーニチェフ社はアンガラの実物大モックアップを持ち込んで展示し、2001年にはRD-191ロケットエンジンの初の燃焼試験も行われたが、資金難と技術力の低迷から、実際のところ計画はほとんど進んでいなかった。

2004年には開発資金を得るため韓国に接近、アンガラを基に、羅老ロケット(KSLV-1)の第1段を製造し、供給した。羅老は3機が造られ、1号機と2号機は失敗に終わり、最後の3号機で成功している。また2回の失敗も、1号機においては第1段は正常に飛行したため、つまりアンガラはアンガラとして打ち上げられたことはないが、第1段に限っては羅老を通じて3度の飛行経験と、2度の成功経験があることになる。

またロシア経済の回復も手伝い、2000年代後半になってようやく開発は本格化した。ここにきても、まだ毎年1年ずつデビューが先送りされるような有様ではあったが、2014年になり、ようやく打ち上げにこぎつけた。

アンガラはモジュール式であることが最大の特長だ。ユニヴァーサル・ロケット・モジュール(URM-1)と呼ばれるアンガラの第1段を何基も束ねたり、あるいは第2段(URM-2)を共有しつつ第3段を追加したりすることで、打ち上げ能力が様々なロケットを簡単に構築でき、多種多様な大きさ、質量の人工衛星の打ち上げに対応できる仕組みになっている。言い換えれば、アンガラと名の付くロケットは、小型ロケットであり、中型ロケットでもあり、また大型ロケットでもあり、そして超大型ロケットにもなれるというわけだ。これによりロコット、ゼニート、プロトンといったロケットを代替することが目指されている。

また第1段、第2段にはケロシンと液体酸素の組み合わせを使用するエンジンを装備しており、毒性の高い推進剤を使うロコットやプロトンよりも、環境や人体に比較的優しいという利点も持つ。そしてカザフスタンのバイコヌール宇宙基地からしか打ち上げられなかったプロトンとは違い、アンガラはロシアのプレセーツク宇宙基地から打ち上げられる。これらによってロシアは、完全にロシアだけの力で、大型衛星を打ち上げられる能力を得たことになる。

アンガラ・シリーズの中でもっとも打ち上げ能力が小さいのはアンガラ1.2と呼ばれる構成で、地球低軌道(高度200km、軌道傾斜角63.1度、以下同)の軌道に3,800kgの衛星を投入することができる。またかつては、第2段にブリーズKMを搭載した、さらに打ち上げ能力が小さいアンガラ1.1と呼ばれる構成も提案されていたが、現在では中止されている。

次に打ち上げ能力が大きいのはアンガラA3で、こちらは地球低軌道に14,600kg、静止トランスファー軌道には、ブリーズMを搭載した場合は2,400kg、KVTKであれば3,600kgの衛星を投入できる。

次に能力が大きいのは今回打ち上げられたアンガラA5で、そして最強型アンガラA7では低軌道に35,000kg、静止軌道には7,600kgの衛星を直接投入することも可能だ。

これらアンガラ・シリーズは、プレセーツク宇宙基地の他、ゆくゆくはロシア極東部に建設中のヴァストーチュヌィ宇宙基地からも打ち上げられる予定だ。

 

■Первый испытательный пуск ракеты-носителя «Ангара» тяжелого класса прошел успешно
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