スペースX、新型ロケット「スターシップ」第7回飛行試験の実施に向けて準備中

アメリカの民間企業SpaceX(スペースX)は2025年1月4日、同社が開発中の新型ロケット「Starship(スターシップ)」による無人での第7回飛行試験に向けて準備を進めていると発表しました。日本時間2025年1月7日午前の時点で同社から具体的な打ち上げ目標日時は発表されていませんが、海外メディアのSpaceNewsはアメリカの現地時間2025年1月10日から16日にかけて、打ち上げ機会に関する飛行制限空域の情報が発表されていると伝えています。

Starshipとは?

第6回飛行試験で打ち上げられたSpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」(Credit: SpaceX)
【▲ 第6回飛行試験で打ち上げられたSpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」(Credit: SpaceX)】

Starshipは1段目の大型ロケット「Super Heavy(スーパーヘビー)」と2段目の大型宇宙船「Starship」からなる全長121mの再使用型ロケットで、打ち上げシステムとしてもStarshipの名称で呼ばれています。液体メタンと液体酸素を使用する「Raptor(ラプター)」エンジンをStarship宇宙船は6基(大気圏内用3基・真空用3基)、Super Heavyは33基搭載しています。

SpaceXによると、両段を再使用する構成では100~150トンのペイロード(搭載物)を打ち上げ可能。2段目のStarship宇宙船は単体でも準軌道飛行(サブオービタル飛行)が可能で、地球上の2地点間を1時間以内に結べるとされています。

また、Starship宇宙船はアメリカが主導する月探査計画「Artemis(アルテミス)」の月着陸船「HLS(Human Landing System、有人着陸システム)」のひとつとしても採用されており、アメリカ航空宇宙局(NASA)によれば同計画初の有人月面着陸を行う「Artemis III(アルテミス3)」ミッションでHLS仕様のStarship宇宙船が使用される予定です。

月に着陸した「Starship HLS(スターシップHLS)」の想像図
【▲ 月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様のStarship宇宙船「Starship HLS(スターシップHLS)」の想像図(Credit: SpaceX)】

Starship宇宙船を大幅にアップグレード ペイロード放出テストも予定

SpaceXはアメリカ・テキサス州ボカチカの同社施設「Starbase(スターベース)」を拠点にStarshipの開発を進めていて、これまでにSuper Heavyも含めたStarship打ち上げシステム全体の飛行試験を2023年4月から2024年11月にかけて合計6回実施しています。

SpaceXによると、Starship第7回飛行試験では改良された新世代のStarship宇宙船による初のペイロード(搭載物)放出テストや、第5回飛行試験で成功したSuper Heavyの発射台帰還が試みられます。

SpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」第7回飛行試験で使用されるStarship宇宙船(Credit: SpaceX)
【▲ SpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」第7回飛行試験で使用されるStarship宇宙船(Credit: SpaceX)】

まずはStarship宇宙船のアップグレードについて。機体の前後に合計4つ備わっているフラップのうち前方の2つはサイズを縮小した上で、取り付け位置が従来よりも機体先端側・耐熱タイルの反対側(背面側)に変更されました。前方のフラップは過去の飛行試験において大気圏再突入時の高熱で損傷していましたが、この変更によって熱の影響を受けにくくなると期待されています。

初めてインド洋への着水に成功した第4回飛行試験時に降下中のStarship宇宙船からStarlink経由で送られた映像。フラップの1つが大気圏再突入時の高熱で損傷していく様子が写し出された。SpaceXのライブ配信より(Credit: SpaceX)
【▲ 初めてインド洋への着水に成功した第4回飛行試験時に降下中のStarship宇宙船からStarlink経由で送られた映像。フラップの1つが大気圏再突入時の高熱で損傷していく様子が写し出された。SpaceXのライブ配信より(Credit: SpaceX)】

また、タイルの破損や脱落に備えたバックアップ用の保護層を含む新世代の耐熱タイルを採用。タイルの一部は機体のストレステストの一環として取り外される他に、代替材料のテストとして複数の金属製タイル(能動的な冷却機能を備えたものを含む)も取り付けられています。加えて、Super Heavyブースターと同様にStarship宇宙船を発射台に帰還させる上で必要となる機体側面の構造物も取り付けられ、耐熱性能がテストされます。

Starship(スターシップ)第7回飛行試験で使用されるStarship宇宙船のエンジン地上燃焼試験の様子(Credit: SpaceX)
【▲ Starship(スターシップ)第7回飛行試験で使用されるStarship宇宙船のエンジン地上燃焼試験の様子(Credit: SpaceX)】

機体の内部も改良されており、推進剤の25%増量や真空用Raptorエンジンの新しい燃料供給システムを含む推進システムの再設計を実施。発射台への帰還や軌道上での燃料移送に備えてアビオニクス(航空電子機器)も一新されて機能や冗長性が追加されており、機体各部を把握するために30台以上のカメラも搭載されています。

これらのアップグレードが施された新世代Starship宇宙船の初飛行となる第7回飛行試験では、第6回飛行試験に続いて行われるRaptorエンジン1基の宇宙空間での再点火テストの他に、前述の通り初のペイロードの放出テストが試みられます。搭載されるのはSpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink(スターリンク)」用の次世代通信衛星とサイズ・重量が同じ模擬ペイロード「Starlink simulator」10基。Starship宇宙船と同じ軌道を辿るため、最終的には大気圏に再突入してインド洋へ落下することになります。

Super Heavyブースターはエンジン1基を初めて再使用 発射台帰還に再挑戦

SpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」第7回飛行試験で使用されるSuper Heavyブースター(Credit: SpaceX)
【▲ SpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」第7回飛行試験で使用されるSuper Heavyブースター(Credit: SpaceX)】

一方、Super Heavyブースターは再使用化実現への一歩として、第5回飛行試験で発射台へ帰還することに成功した機体に搭載されていたRaptorエンジン33基のうち1基が再使用されます。

また前述の通り、第7回飛行試験ではSuper Heavyブースターの発射台への帰還が再び試みられます。発射台への帰還は第6回飛行試験でも試みられる予定でしたが、Starship宇宙船分離後の判断により実施されず、機体はメキシコ湾に着水していました。

Starship(スターシップ)第5回飛行試験で発射台に戻ってきた大型ロケット「Super Heavy(スーパーヘビー)」の空中キャッチ最終段階。3枚の画像を合成したもの
【▲ SpaceXの新型ロケット「Starship(スターシップ)」第5回飛行試験で発射台に戻ってきた大型ロケット「Super Heavy」の空中キャッチ最終段階。3枚の画像を合成したもの(Credit: SpaceX)】

SpaceXによると、第6回飛行試験で発射台への帰還が試みられなかったのは発射時にchopstick arms(チョップスティック・アーム)とも呼ばれる発射台の大型ロボットアームのセンサーが損傷したことが原因とされており、第7回飛行試験に向けてセンサーの保護が行われたということです。

なお、SpaceXは第7回飛行試験の予告の最後で「この新年はStarshipにとって変革の年になる」と述べています。大幅に改良されたStarship宇宙船のペイロード放出テストとインド洋への着水、そしてSuper Heavyブースターの発射台への帰還に成功するか、第7回飛行試験に注目です。

Starship(スターシップ)第7回飛行試験で使用されるSuper Heavyブースターのエンジン地上燃焼試験の様子(Credit: SpaceX)
【▲ Starship(スターシップ)第7回飛行試験で使用されるSuper Heavyブースターのエンジン地上燃焼試験の様子(Credit: SpaceX)】

 

Source

  • SpaceX - Starship's Seventh Flight Test
  • SpaceNews - SpaceX to test vehicle upgrades and payload deployment on next Starship flight

文・編集/sorae編集部