こんにちは、外科医の後藤です。

地上では、今日のwithコロナ社会と情報通信技術の発展とに伴い、オンラインによる遠隔医療が急速に広まりを見せています。

今後地上での医療において、遠隔医療の重要性がさらに高まる可能性は高く、究極の遠隔地である宇宙での利用も期待されています。

今回は遠隔医療の基本的な解説と、宇宙での活用にはどのような期待と課題があるのかを説明します。

遠隔医療とは

遠隔医療とは、「通信技術を利用した健康増進・医療・介護に関する行為」と定義されています。

医療インフラの集中する都市部と離島やへき地など医療資源が乏しい地域との医療格差解消、高齢者など移動が困難な方の利便性向上、血圧や血糖値など日常生体データ収集による患者見守りや精密な健康管理が可能となるなどの観点から、近年注目を集めています。

2014年時点での厚生労働省による医療施設調査では、画像診断・病理診断・在宅医療が遠隔医療として行われていました。

医師法では「医師は自ら診察をせずに治療をしてはならない」と定められており、現在のところあくまで原則は対面診察であり、遠隔医療はそれを補完する役割として位置づけられています。

現状の技術では、大容量データの転送や直接処置が必要な医療についてはまだ困難であり、遠隔医療によって高い専門医療を提供することはこれからの課題となります。

しかし、今後普及が期待される第5世代移動通信システム (5G)によって、複数の超精密リアルタイム情報を低遅延で双方向伝達することが期待できます。

そうなると、複雑な画像情報を処理しつつ高難度の手術を遠隔地から行う、という未来の医療が実現する日が近く来るかもしれません。

心筋梗塞や重症脳梗塞など、緊急治療が必要な病態においても地域から都市部の総合病院に搬送する、という時間を大幅に短縮できることで救命率や後遺症の軽減に役立つことも期待されています。

一方、以下のような課題が報告されています。

最新の遠隔医療には5Gネットワークなど通信環境の整備が必要で、通常は人口が多い都市部から整備が進むと考えられるため、初期段階ではますます都市部と地域、あるいは整備が進んだ地域と遅れた地域との間で医療格差が広がってしまう可能性があること。

また、遠隔医療の効果が対面診察と同等もしくは優れているとする十分なエビデンス(科学的根拠)はなく、遠隔医療の効果を評価する方法の確立が求められていること。

さらには、通信機器や人工知能が医療に介在することで、もし好ましくない結果が生じた場合、責任の所在はどこにあるのかを突き止めることは難しいことなどが指摘されています。

これらを総合すると、遠隔医療の発展は望ましいことですが、あくまでも医療の基本は対面診察であることを忘れてはならないと考えられます。

遠隔医療の地上での実用例

遠隔医療は遠くにいる患者に医療を届けるのみならず、医療者と医療者の協力関係を高めるものでもあります。

例えば、離島やへき地など医療資源が十分でない場所の医師に対して、重症患者が発生した際に都市部の経験豊富な医師が遠隔で画像や臨床症状を共有し、診断や治療に対して的確な助言を与えるなどの役割があります。

また、現在は急性期治療病院から地域の診療所までが連携して地域住民の健康にかかわる地域包括ケアシステムが導入されていますが、その医療機関の連携にICTを取り入れデータ共有をスムーズにする試みも始まっています。

一方、医師が遠隔地にいる患者に対して行う医療には、日常管理が重要な糖尿病患者や、いつ出現するか分からない致死性不整脈の患者の生体データをモニタリングする健康管理が行われています。

遠隔医療は、その社会にとって最適な健康・医療・介護の提供を目指すもので、国内外にはその社会の内情に応じた先進的な製品やシステムが見られます。

聴診器を200年ぶりに進化させたといわれる、心筋活動電位と聴診音をデジタル合成することで疾患に繋がる心雑音のみを自動検出できるようにした、「超聴診器(心疾患診断アシスト機機能付遠隔対応聴診器)」(AMI株式会社/日本)。

離島や医療過疎地域でも超聴診器のデータ通信を行えばリアルタイムで専門医が診断可能であり、地上と宇宙での応用も期待されます。

超聴診器 出典:AMI社

インドネシアでは「都市部での診療待ち時間が数時間に及ぶ一方、地方部では医師がとても遠い」という問題解決のために、スマートフォンで診察から医薬品購入・配送まで完了する遠隔診療が成立しました(Halodoc/インドネシア)。

医師22000人のネットワークに24時間どこからでもアクセス可能なことでユーザーは200万人を超えており、診察料はわずか$1.7-5ドルという驚きのシステムとなっています。

インドネシア スマートフォン遠隔医療 出典:Halodoc HP

また、デンマークの国家プロジェクトとして行われている、「ドローンによる血液や医療スタッフの輸送」(Falck/デンマーク)。

デンマークでは日本と同じく地方では医療機関が閉鎖になり、減少している一方で高齢者が増えており、患者が治療のために遠くの医療機関に行かなければならない課題を解決します。

さらに驚くべきことには、米国には遠隔医療に特化した世界初の「病床のない病院」が出現しています(Mercy Health System/米国)。

感度双方向カメラや、オンライン対応の機器やリアルタイムのバイタルデータなどから、患者がどこにいても診察を受けられるようことができるよう設計されているそうです。

3,800人の患者をモニタリングしており、必要なタイミングでケアを提供することで入院を減らし、新製品のテストやトレーニングスペース等により病院施設が構成されています。

これら最先端の遠隔医療システムや製品を、日本の状況にあった形で取り入れていくことが期待されます。

宇宙での応用

宇宙での遠隔医療として、ミッション中の飛行士に身体問題が生じた際に、地上のフライトサージャンと通信により診断や治療の指示を受ける、といった取り組みはすでに実現しています。

JAXA では 2012 年、軌道上で心電図・脳波・電子聴診器などさまざまな医療機器から取得した医学データを解析・管理し、その解析情報を地上と共通でモニターできるプラットフォームを構築しました。

医師でもある古川聡宇宙飛行士は、宇宙長期滞在でこのシステムの有用性を自身が被験者となり立証しました。

後に血圧計・体温計・筋力測定器などの追加機器もISSに搭載され、星出宇宙飛行士はシステム上の電子カルテ画面や操作手順の修正を行ったうえ、電子聴診器を用いたリアルタイム聴診実験を行い、ISSで測定した心音が非常にクリアに地上で聞こえることをはじめて確認しました。

このシステムは他国の宇宙機関にはないもので、データ管理の一元化により「電子カルテ」として異なる医療機器のデータ比較が可能となったのです。

軌道上遠隔診断システムに医学実験データが集約・管理される医療機器の構成 出典:JAXA

この図を見て頂くと、宇宙で利用されている医療機器はすべて小型・ポータブルであることが分かります。

宇宙飛行士はこれらの機器を自分で装着し、測定データはPCに集められて飛行士の健康状態が地上から常にモニターされています。

宇宙飛行士が宇宙滞在中は、NASAジョンソン宇宙センター(Johnson Space Center: JSC)のミッションコントロールセンター(Mission Control Center Houston: MCC-H)と連携し、専任のフライトサージャンが宇宙飛行士の健康状態を24時間体制でモニタリングしています。

週に1回、宇宙飛行士と話すビデオ遠隔医療面談(Private Medical Conference: PMC)を行い、飛行士の健康状態について情報収集や、船外活動の際には心電図・宇宙服の中の酸素や二酸化炭素濃度をリアルタイムでモニタリングします。

そのフライトサージャンを支えているのが、遠隔通信機器や管制業務のエキスパートであるBME(Biomedical Engineer)および健康管理担当者です。

BMEは、搭載している医療機器・運動機器などの状況を把握したり、飛行士の健康管理スケジュールやビデオ遠隔医療面談の調整したりしています。

健康管理担当者は、看護師等の医療従事者の資格を有し、国内での日々の宇宙飛行士の健康管理や医学検査時にフライトサージャンを支援します。

宇宙での将来的な遠隔医療として、地上からの遠隔によるロボット手術が想定されます。

ダ・ヴィンチを筆頭に地上で実用化が進むロボット手術ですが、術者からロボットの反応時間は0.1秒以下が条件という高度なネットワーク精度が求められます。

さらに、手術で重要となる術者の「触覚」の伝送についても、一部の腹腔鏡下手術などを除きまだ技術的な困難が残っています。

体位セッティングや周術期の全身管理の必要性なども考慮すると、宇宙での遠隔手術をロボットのみで完結するのは困難で、現地医療を補完する役割が考えられます。

宇宙での遠隔医療は、下図のように地球と宇宙機の距離によって3つに分けて考えられており、ISSなど地球低軌道にいるときは”telesurgery”、すなわち遠隔手術を0.1-0.5秒の遅延で実現するとされています。

地球から38万km離れた月面では通信速度遅延は2秒以内ですが、火星では最大20分の通信遅延があるため地上からリアルタイムの遠隔医療は成立しません。

火星においては ”Consultancy telemedicine” 、現地での診断から治療までの自立型医療を支援する役割となるのではと考えられます。

長距離宇宙飛行における、遠隔医療サポートの概念図 出展:Surgery in space: the future of robotic telesurgery

今回は、地上と宇宙での遠隔医療の現状と、将来展望について説明しました。

地上との遠隔で成立する医療と、現地で自立して行う医療のバランスをとりつつ、宇宙であるべき医療の姿を考えていくことが必要だと考えられます。

 

参考文献
・Telemedicine in Neurosurgery. Jpn J neurosurgery, 2020
・血管内血栓回収術における医療連携の現状と課題. Jpn J neurosurgery, 2020
・Health challenges including behavioral problems in long-duration spaceflight. Neurol India, 2019
・Human health during space travel: An overview. Neurol India, 2019
・Remote Echography between a Ground Control Center and the International Space Station Using a Tele-operated Echograph with Motorized Probe. Ultrasound Med Biol, 2018
・Surgery in space: the future of robotic telesurgery. Surg Endosc, 2011
・JAXAの宇宙医学における研究領域 遠隔医療 JAXA HP
・未来イノベーションWGからのメッセージ 2019年3月 経済産業省
・第2の手術支援ロボット ”触覚”を持つ「センハンス」の実力 日経メディカル No.634, 2020

Source: ABLab
文/後藤正幸 (Twitter)(Facebook)
「宇宙に、医療を」目標とする脳神経外科医。医療分野での宇宙ビジネス創出を目指して、日々活動中。最新の宇宙医学研究を、多くの人に分かりやすく伝える発信を行なっている。

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