スポンサーリンク
宇宙望遠鏡「ガイア」による最新の観測データ「EDR3」をもとに作成された全天画像(Credit: ESA/Gaia/DPAC)

【▲ 宇宙望遠鏡「ガイア」による最新の観測データ「EDR3」をもとに作成された全天画像(Credit: ESA/Gaia/DPAC)】

マックス・プランク天文学研究所(MPIA)のMaosheng XiangさんHans-Walter Rixさんは、天の川銀河の誕生と形成の歴史に関する新たな研究成果を発表しました。今回の研究では欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」の観測データが重要な役割を果たしています。これまで天の川銀河は約110億年前に形成され始めたと考えられていたものの、両氏はその時期が20億年遡る約130億年前(ビッグバンから約8億年後)だった可能性を今回の研究で示しました。

■“厚い円盤”を構成する星の一部が約130億年前に形成された可能性

天の川銀河は多くの星々が集まっている中央部分の「バルジ」(bulge、銀河バルジ)、バルジを取り巻く扁平な「円盤」(disc、銀河円盤)、バルジと円盤を取り囲む球状の希薄な「ハロー」(halo、銀河ハロー)といった構造を持っています。

円盤の直径は約10万光年で、太陽系は天の川銀河の中心から約2万6000光年離れた円盤の内部に位置しています。この円盤は単一の構造ではなく、比較的古い星でできた「厚い円盤」(thick disk)と、比較的新しい星でできた「薄い円盤」(thin disk)が重なり合った構造をしていることが知られています。ESAによると、厚い円盤は薄い円盤と比べて2倍以上の厚みがあるものの、直径は薄い円盤よりも小さく、太陽系の近傍では厚い円盤に属している星は数パーセントだといいます。

XiangさんとRixさんは今回、ESAのガイア宇宙望遠鏡と中国の多天体分光観測用望遠鏡「LAMOST」の観測データを使用して、天の川銀河全体に分布している「準巨星」約25万個の年齢を調べました。準巨星は主系列星から巨星へと進化しつつある段階の星とされていて、星の中心部では水素の核融合反応が終わりつつあると考えられています。

横から見た天の川銀河の想像図。左上の小さな図は厚い円盤(Thick disc)と薄い円盤(Thin disc)の厚みの違いを示している(Credit: Stefan Payne-Wardenaar / MPIA)

【▲ 横から見た天の川銀河の想像図。左上の小さな図は厚い円盤(Thick disc)と薄い円盤(Thin disc)の厚みの違いを示している(Credit: Stefan Payne-Wardenaar / MPIA)】

様々な場所にある準巨星の年齢をもとに、両氏は次のような天の川銀河形成の歴史を導き出しました。

今から約130億年前、まず最初に天の川銀河の“厚い円盤”を構成する星々の形成が始まりました。それから20億年が経った約110億年前、天の川銀河は「ガイア・ソーセージ・エンケラドス」(※)と呼ばれる別の銀河と合体します。

※…Gaia-Sausage-Enceladus。ガイア・エンケラドス、ガイア・ソーセージ、ガイア・エンケラドス・ソーセージとも

ガイア・ソーセージ・エンケラドスとの合体は天の川銀河における星形成活動を活性化させ、ハローの内側部分(inner Galactic halo、内部銀河ハロー)を構成する星々が短期間で形成されました。合体後も厚い円盤での星形成は続いたものの、元々あったガスが使い果たされたことで、約80億年前に終息しました。

しかしその後も天の川銀河には、外部から水素ガスが安定的に流れ込んでいたとみられています。厚い円盤での星形成活動は終わっていたので、流入したガスは円盤の内部へ蓄積していきました。蓄積したガスはやがて収縮して新たな星形成活動が始まり、太陽をはじめとした“薄い円盤”の星々が形成されることになります。現在の天の川銀河は、こうした2段階の星形成活動を経て形成されたというわけです。

なお、恒星の内部では核融合反応によって金属(ここでは水素やヘリウムよりも重い元素のこと)が生成されています。生成された金属は超新星爆発や恒星風などによって周辺へ放出されるため、銀河の金属量は時が経つにつれて増えていくことになります。今回の研究では、約130億~80億年前の星形成活動によって、厚い円盤の金属量が10倍以上に増えていたことが示されました。この時期に誕生した星は年齢が同じなら金属量も同じであるように見えることから、当時の厚い円盤ではガスがよく混合されていたとみられています。

宇宙望遠鏡「ガイア」の想像図(Credit: ESA–D. Ducros, 2013)

【▲ 宇宙望遠鏡「ガイア」の想像図(Credit: ESA–D. Ducros, 2013)】

今回の研究でXiangさんとRixさんは、2020年12月に公開されたガイアの観測データ第3弾「EDR3(Early Data Release 3)」を利用しました。2022年6月にはこのデータの完全版「DR3(Data Release 3)」の公開が予定されており、研究者はさらに詳細な星々の情報を研究に利用できるようになります。

関連:観測された星の数は18億以上。宇宙望遠鏡「ガイア」の最新データが公開される

また、2022年夏の科学観測開始に向けて調整が進む宇宙望遠鏡「James Webb(ジェイムズ・ウェッブ)」は初期宇宙の銀河の観測が目的のひとつになっていますし、星々の化学組成を調べるためのさらなるサーベイ観測(分光サーベイ)も今後予定されているといいます。MPIAはこうした見通しを踏まえて、銀河考古学(※)の新章が始まりつつあるかもしれないと期待を寄せています。

※…星々の分布・運動・金属量などの情報をもとに、銀河の誕生と進化の歴史を研究する学問分野

 

関連:ミーアキャットが観測した天の川銀河。中心部を取り囲む未知の天体も捉える

Source

  • Image Credit: ESA/Gaia/DPAC; Stefan Payne-Wardenaar/MPIA; ESA–D. Ducros, 2013
  • ESA - Gaia finds parts of the Milky Way much older than expected
  • MPIA - The exciting teenage years of our Milky Way galaxy
  • Xiang and Rix - A time-resolved picture of our Milky Way’s early formation history

文/松村武宏

スポンサーリンク