補償光学の力。地上から高解像度で撮影されたイータカリーナ星雲
補償光学を利用して観測されたイータカリーナ星雲(疑似カラー)(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA)

こちらは南天の「りゅうこつ座」(竜骨座)の方向およそ7500光年先にある「イータカリーナ星雲」の一部を赤外線の波長でクローズアップ撮影したものです。画像にはガスと塵の濃密な分子雲でできた幅5光年ほどに渡る複雑な構造が見事に捉えられています。

広大なイータカリーナ星雲は星形成を研究する上で理想的な領域のひとつで、可視光線を遮ってしまう塵の向こう側も赤外線なら観測することが可能です。星雲の微細な構造を写し出す観測手段というと「ハッブル」などの宇宙望遠鏡が思い浮かびますが、この画像はライス大学のPatrick Hartigan氏らの研究グループがジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」(口径8.1m)を使って地上から撮影したものです。

地上に建設された天体望遠鏡は地球の大気によるゆらぎの影響を受けますが、その影響を打ち消す「補償光学(Adaptive Optics)」と呼ばれる技術を利用することで、宇宙望遠鏡にも匹敵する解像度を得ることができます。補償光学はジェミニ南望遠鏡だけでなく、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」や、ESO(ヨーロッパ南天天文台)の「超大型望遠鏡(VLT)」などでも利用されています。

冒頭のイータカリーナ星雲の画像はジェミニ南望遠鏡で補償光学を利用しない場合と比べて解像度が10倍高く、同じ波長をハッブル宇宙望遠鏡で観測する場合と比べて約2倍鮮明とされています。Hartigan氏によると、補償光学を使うことで得られたイータカリーナ星雲の観測データは、若く巨大な星々がどのようにして周囲に影響を及ぼし、星や惑星の形成に関与するのかについて従来以上に鮮明な視野を提供するものだといいます。

Hartigan氏は「太陽系もこのような環境で形成された可能性があります。もしそうであれば、近い距離にあった巨大な恒星からの放射や恒星風は、外側で形成された惑星の質量や大気にも影響を及ぼしたでしょう」とコメントしています。

同じ領域を補償光学を利用せずに観測した場合(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA)

 

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Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA
Source: ライス大学 / NOIRLab
文/松村武宏