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北朝鮮の人工衛星打ち上げロケット「銀河3号」(c)VOA

またも北朝鮮が「人工衛星の打ち上げ」を通告してきたという報道がありました。こんなとき、日本ではよく「人工衛星と称する事実上のミサイル」といった、珍妙な言い回しが多用されます。

これは、北朝鮮のロケットが実際には弾道ミサイルであり、その隠れ蓑として人工衛星打ち上げという口実を使っているに過ぎない、ということを強調しているのだと思われますが、北朝鮮の主張通り、人工衛星打ち上げと言ったら差支えがあるのでしょうか。そもそも、ロケットとミサイルはどう違うのでしょう。

ロケットは「飛ぶ方法」

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ガスを噴射して飛行するイプシロンロケット(c)JAXA/JOE NISHIZAWA

まず最初に押さえておかなければならないのは、「ロケットかミサイルか」という分類はそもそもナンセンスだということです。それは、この2つの言葉は全く別の概念の話をしているからです。

ロケットとは、ガスを噴射してその反動で進むもののことです。高圧のガスを作るために、火薬を燃やしたり、燃料と酸素を混ぜて燃やしたりします。最も単純なロケット花火から、人工衛星を打ち上げる宇宙ロケットまで、いろいろな大きさや性能のものがありますが、原理は同じです。

一般的には、衛星を宇宙へ運ぶロケットを単に「ロケット」と呼ぶことが多いですが、他の用途と区別するときは宇宙ロケットとか衛星打ち上げロケットなどと言います。音や光を楽しむための火薬を載せたロケットはロケット花火です。爆弾を載せて飛んで行く武器のことはロケット弾と言います。

ミサイルは「自動操縦して自爆する武器」

一方で、ミサイルというのは武器の種類です。自動操縦で空を飛び、目的地まで爆弾を運んで自爆する武器のことをミサイルと言います。自動操縦で空を飛ぶというところがポイントで、神風特攻隊のパイロットをコンピューターに置き換えた、無人特攻機と考えればよいでしょう。

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多くのミサイルは、ロケットの力で飛びます。ロケットは構造が単純で製造しやすく、固体燃料ならいつでも発射できる状態で保管できるなど、武器として使いやすいからです。なお、ロケットではなくジェットエンジンで飛ぶミサイルもあり、こういうものは「巡航ミサイル」と呼ばれます。

爆弾をロケットで投げるのが弾道ミサイル

ミサイルは「どこから発射するか」「何を攻撃するか」によって様々なものがあります。その中で、地上から発射してロケットで一気に加速し、投げられたボールのように爆弾部分が自由落下して目標に達するものを「弾道ミサイル」と呼びます。

弾道ミサイルは数百kmから、大きなものでは1万kmも遠くまで飛ばすことができます。ただ、遠くまで飛ばそうとすると目標に正確に当てるのが難しくなるので、多少外れてもいいように核爆弾や化学兵器などを搭載することが少なくありません。長距離の弾道ミサイルは、ほとんどが核ミサイルです。

弾道ミサイルと宇宙ロケットは双子

アメリカの弾道ミサイル「アトラス」に有人宇宙船「マーキュリー」を載せた、アトラスロケット(c)大貫剛

このように、弾道ミサイルは「ロケットで飛ぶミサイル」なので、「ロケットかミサイルか」という問いはあまり意味がありません。しかも、ロケットの中でも弾道ミサイルと宇宙ロケットは、双子と言えるほどよく似ているのです。

弾道ミサイルは、爆弾を「ボールを投げるように目標へ落とす」ものですが、宇宙ロケットは人工衛星を「ボールを投げるように、地球の丸みに沿って地平線の向こうへ落とす」ものです。やっていることはほとんど同じです。

大きな違いは2つあります。ひとつは、飛ばし方です。ボールを投げるとき、遠くへ投げるには高く山なりに投げますが、速く投げるには低くまっすぐに投げますよね。ロケットも、長距離の弾道ミサイルは高度数千kmもの高さまで打ち上げますが、宇宙ロケットは高度数百kmで水平に加速します。意外なことに、宇宙ロケットより弾道ミサイルの方が宇宙を高く飛ぶのです。

※もっと高く飛ぶ人工衛星や、地球を脱出する探査機などもありますが、まず低い軌道に乗ってから再度、加速して上昇するのが一般的です。

実際に、初期の宇宙ロケットは弾道ミサイルと同じものが使われていました。ただ、そのままでは速度が足りないので、弾道ミサイルの上にさらに上段ロケットを追加して加速します。この、段数が多いというのも弾道ミサイルと宇宙ロケットの違いです。ただ、下段は全く同じものでも構いません。

世界初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げたソ連のロケットは、世界初の大陸間弾道ミサイル「R-7」と同じもので、現在も改良を重ねて「ソユーズ」の名で人工衛星や有人宇宙船の打ち上げに使われています。アメリカでも「レッドストーン」「アトラス」「タイタン」などの弾道ミサイルが、そのままの名前で宇宙ロケットとしても使われました。

北朝鮮のロケットは?

北朝鮮は2009年に宇宙ロケット「銀河2号」、2012年に「銀河3号」を打ち上げ、「銀河3号」は人工衛星の軌道投入に成功しました。これらのロケットは弾道ミサイル「テポドン2号」をもとにして作られたものと考えられています。

先に説明した通り、弾道ミサイルを宇宙ロケットとして使うことはよくあることです。日本人宇宙飛行士も利用しているソユーズ宇宙船を打ち上げるとき、「事実上の弾道ミサイル」と言ったりはしません。テポドン2号を弾道ミサイル、銀河ロケットを宇宙ロケットと呼ぶことは、宇宙開発の常識から言えば少しもおかしくないことなのです。

北朝鮮は「宇宙ロケットでもダメ」

では、北朝鮮が「これは弾道ミサイルではなく宇宙ロケットだから問題ない」と言うのを認めなければならないのでしょうか?そうではありません。北朝鮮は「弾道ミサイルでも宇宙ロケットでもダメ」なのです。

国連安全保障理事会はこれまでに何度も、北朝鮮に「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動の停止」を求めています。もちろんそれは、北朝鮮が核実験などで周辺地域の平和を脅かしていることを、国際社会が非難しているからです。弾道ミサイル「テポドン2号」と宇宙ロケット「銀河3号」はほとんど同じものですから、たとえ衛星の打ち上げであっても弾道ミサイルに関連する活動であることは明らかです。

今回、北朝鮮で発射準備が行われているものが弾道ミサイルなのか宇宙ロケットなのかは、実際に発射してみないとわかりません。しかし、仮に発射されたものが人工衛星の打ち上げであったとしても、国連安保理違反であることに変わりありません。「事実上の弾道ミサイル」などという不思議な言葉を使わなくても、「弾道ミサイル関連活動」と言えば充分でしょう。

日本のロケットは弾道ミサイル?

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赤いカバーで隠されたロケットエンジン。ロケット技術は弾道ミサイルとして利用されないよう管理されている。(c)JAXA

さて、日本の宇宙ロケットに関しても「弾道ミサイルとして使えるのではないか」といった議論を聞くことがありますが、実際のところはどうなのでしょうか。

弾道ミサイルと宇宙ロケットの違いは少ないので、日本の宇宙ロケット技術で弾道ミサイルを作ることは難しくはありません。液体水素を使うロケットは兵器として使いにくいですが、固体燃料ロケットの技術も日本にはあります。弾道ミサイル固有の技術は開発しなければなりませんが、弾道ミサイル自体は半世紀も前から作られているのですから、日本独自に開発することは難しくないでしょう。その意味で、日本の宇宙ロケット技術も弾道ミサイル技術と言えますから、情報が流出しないよう細心の注意が払われています。

それでも、北朝鮮と違って日本が宇宙ロケットを打ち上げても非難されないのは、日本には核兵器を保有する意図がなく、宇宙ロケットの技術で弾道ミサイルを開発するつもりがないと、国際社会から信頼を得ているからなのです。

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