米航空宇宙局(NASA)は現地時間5日深夜(日本時間6日朝)、通信に異常が発生した後、科学観測を停止していた冥王星探査機「ニュー・ホライズンズ」について、その原因を特定したと発表した。

また探査機に損傷などもなかったことから、現地時間7日にも科学観測を再開し、通常の運用に戻るという。これにより、今月14日に予定されている冥王星への最接近時の観測は、問題なく実施できる見込みとされる。

ニュー・ホライズンズは現地時間7月4日午後に、何らかの問題が発生し、通信ができない状態に陥った。この障害は1時間21分間続き、その後回復したものの、異常を検知した探査機自身の判断で、メインのコンピューターから、バックアップのコンピューターに切り替え、必要最小限の機能のみを動かす「セーフ・モード」と呼ばれる状態に入っていた。

セーフ・モードに入った状態では科学観測に必要な機器が動かせず、またなぜ通信に障害が起きたのかを突き止め、その原因を取り除かなければセーフ・モードを解除できないため、地上の運用チームは対応に当たっていた。

さらに、探査機が冥王星のすぐそばを通過する機会が14日に迫っており、時間に余裕もない状態だった。

NASAの発表によると、今回の問題の原因は、冥王星への最接近に備えた準備を行う運用中に、地球から探査機へコマンド(指令)を連続して送信した際のタイミングにあったという。同様のコマンド操作は、冥王星最接近までに一度も予定されておらず、再発はしないとのことだ。

今後は、7月7日にも停止していた科学観測が再開され、また冥王星最接近に備えた準備を行うという。

また、セーフ・モードに入っていた間に中断された科学観測について、探査機の目指す科学観測への影響はほとんどないという。

ニュー・ホライズンズの主任研究員を務めるAlan Stern氏は「科学については、A+からAにさえ変更しません」と述べた。

NASAの惑星科学計画の責任者を務めるJim Green氏は「私たちのチームが、迅速に原因を突き止め、探査機の状態を正常に戻せるようにしたことをうれしく思います。すでに冥王星は私たちの眼前に迫っています。私たちはまもなく通常の運用を再開し、成功のために全力を尽くします」と語った。

ニュー・ホライズンズは2006年1月19日、アトラスVロケットに搭載され、米フロリダ州のケープ・カナヴェラル空軍ステーションから打ち上げられた。以来、9年以上にわたり、冥王星を目指して宇宙を航行し続けている。

探査機は小型のグランドピアノほどの小さい体躯だが、かつては太陽系第9惑星と呼ばれ、人類未踏の星の一つでもある準惑星「冥王星」と、その周囲を回る「カロン」など5つの衛星の謎を解き明かす、大きな使命を背負っている。

冥王星はこれまで、地上の望遠鏡や宇宙に浮かぶハッブル宇宙望遠鏡によってしか観測が行われたことがなく、探査機が接近して詳細に観測が行われたことはない。

ニュー・ホライズンズは打ち上げ後、火星軌道、小惑星帯を通過し、2007年2月28日に木星をスウィング・バイし、さらに加速した。続いて土星、天王星の軌道を通過し、2014年8月25日には海王星の軌道を通過している。

その後、探査機は機器などを温存するために冬眠状態に入り、2014年12月に再起動され、今回の接近に向けた最初の段階への突入に備え、探査機と運用チームは準備を行った。

2015年2月ごろからは観測機器を使った、冥王星の本格的な観測が始まっていた。当時はまだ冥王星との距離が離れていたため、小さなドット程度にしか写らなかったが、航行コースの正確な測定や修正に役立てられていた。最近では、より鮮明な冥王星とカロンの画像が送られてきている。

7月14日に冥王星と衛星カロンに最接近した後は、データを地球に送信しつつ、太陽系外縁のエッジワース・カイパーベルト天体の探査にも挑む。そしてゆくゆくはヴォイジャー1のように太陽圏を脱出し、星間空間を旅する予定となっている。

 

■NASA’s New Horizons Plans July 7 Return to Normal Science Operations | NASA
http://www.nasa.gov/nh/new-horizons-plans-july-7-return-to-normal-science-operations