米国のブルー・オリジン社は4月29日、同社が開発中のロケット「ニュー・シェパード」の初飛行を実施したと発表した。
ブルー・オリジン社は、ネット通販大手のAmazon.comを設立したジェフ・ベゾス氏によって立ち上げられた宇宙企業で、ロケット・エンジンや宇宙船の開発などを手掛けている。その活動内容についてはあまり多くは明らかにされておらず、これまで単段式のサブオービタル機や、軌道に乗る宇宙船の開発などを行っていたことが断片的に知られているのみであったが、近年になり米国の次期基幹ロケット「ヴァルカン」用の大型ロケット・エンジンの開発に乗り出すなど、表舞台へ登場する頻度が高くなりつつある。
ニュー・シェパードはサブオービタル(地球の軌道に乗らない)飛行を目的に開発されているロケットで、実機の姿が公開されたのは今回が初めてである。普通のロケットよりも寸詰まりで、前部と後部が丸くなった、カプセル錠剤のような姿かたちをしている。同社は2010年前後に、より小型の実験機の打ち上げを行っていたことが知られているが、ちょうどそれを拡大させたように見える。
機体は先端のクルー・カプセル(宇宙船)と、それを打ち上げるための推進モジュール(ロケット)に分かれている。同社によると、クルー・カプセルは「3人以上」の宇宙飛行士を運べるように造られている。「3人以上」という言い回しをしているのは、宇宙飛行士と実験機器などの搭載物(ペイロードという)の両方を打ち上げることを前提にしているためだという。
一方の推進モジュールには、BE-3という液体酸素と液体水素を推進剤とするロケット・エンジンが装備されている。推進モジュールは打ち上げ後、地表に垂直に着陸することができるように造られており、BE-3は推力を変えられる(スロットリング)能力を持つ。
発表によると、試験は発表日と同じ米国時間4月29日に、西テキサスで実施されたという。ニュー・シェパードは最大高度30万7000ft(94km)まで上昇し、最大速度はマッハ3を記録したという。誘導や航法、制御システムはすべて予定通り機能したとされる。
最大高度まで到達後、推進モジュールとクルー・カプセルは分離され、クルー・カプセルはパラシュートで地上に帰還した。クルー・カプセルは無人ではあったが、ベゾス氏は「もし宇宙飛行士が乗っていたらば、すばらしい宇宙への旅を味わえただろう」と語っている。
一方、推進モジュールも垂直に着陸することで回収される予定だったものの、油圧系統に問題が発生したため叶わなかったという。ただ、すでに改良に向けた取り組みを始めており、また推進モジュールの2号機、3号機の組み立ても進行中だとし、「私たちはすぐにでも再び飛べる用意がある」とベゾス氏は語る。
なおブルー・オリジン社では、今回の飛行を「初の開発試験飛行」(First Developmental Test Flight)と呼んでいる。その理由として、ベゾス氏によると「私たちのゴールのひとつはロケットを再使用することにある。もしニュー・シェパードが従来からあるような使い捨てのロケットであったなら、今回の飛行は『完璧な初試験飛行』と呼べたかもしれないが、残念ながら推進モジュールを回収することができなかった」としている。
同社によると、ニュー・シェパードが垂直離着陸式の再使用ロケットを開発している理由として、より大型のロケットへそのまま技術が適用できるからとしている。すでに、ニュー・シェパードを数倍大きくしたような、より大型の機体の設計も始まっているという。その新型機にはBE-4と呼ばれる、大型のロケット・エンジンが採用されるという。BE-4はまた、米国の次期基幹ロケットであるヴァルカンの第1段エンジンとして使われることが決まっている。
■Blue Origin | First Developmental Test Flight of New Shepard