エアロジェット・ロケットダイン社は10月1日、輸入ができなくなる恐れが出ているロシア製のRD-180ロケットエンジンの代替案として、同社が検討を進めているAR1を提案すると発表した。

同社は2013年に、米国のロケットエンジン開発において長年のライバルにあった、エアロジェット社とプラット&ホイットニー・ロケットダイン社の名門企業2社が統合されて誕生した。エアロジェット社はサターンVロケットの第2段、第3段に使われたJ-2や、スペースシャトルのOMSなどを開発し、一方のプラット&ホイットニー・ロケットダイン社はセントール上段などに使われているRL10や、スペースシャトルのメインエンジンであるRS-25などを開発した経験がある。つまり同社は、60年間にわたって何千基ものロケットエンジンを造ってきた経験を持つ。

AR1は、かつてはエアロジェット社側で検討されていたAJ-1E6と呼ばれていたエンジンで、NASAとボーイング社が開発中の超大型ロケット、スペース・ローンチ・システム(SLS)に使う液体燃料ブースターとして使用されることが見込まれている。推進剤には液体酸素とケロシンを使用し、エンジンサイクルは酸素リッチの二段燃焼方式で、海面上推力は500,000 lbf(約2.22MN)と出せるとされる。また同社が長年培ってきた技術や実績から、エンジンの実現性は折り紙つきであるとも述べられている。さらに3Dプリンターなどの最先端技術も投入され、低コストに生産ができるともされる。

この話の背景には、現在米国の偵察衛星や軍事衛星など、政府系衛星の打ち上げに使われているアトラスVロケットの第1段ロケットエンジンがロシア製であり、昨今の米露関係の悪化により、ロシアからエンジンを購入できなくなる可能性が出てきたということある。例えば今年5月、ロシアのドミートリィ・ロゴージン副首相は、ロシア製エンジンの輸出を取り止めや、軍事衛星の打ち上げにRD-180を搭載したロケットを使用することを禁止することを匂わせる発言をしている。また米国内でも、ロシア製エンジンに依存し続けることへの懸念の声が政界、産業界から上がっている。

RD-180の代替を巡っては、Amazon.comを創設したジェフ・ベゾス氏が立ち上げたブルー・オリジン社がすでに名乗りを挙げており、ULA社と契約も交わしている。またATK社は固体ロケットへの切り替えを提案、そしてスペースX社は米空軍の衛星打ち上げを担わせるように要求しており、ロケットそのものを代替する計画を持っている。

エアロジェット・ロケットダイン社によれば、AR1は、アトラスVに小さな改修を施すだけで装備が可能で、既存の地上設備や打ち上げ施設も流用できるという。これはAR1が、RD-180と同じ液体酸素とケロシンを使うエンジンであることが大きい。

例えばブルー・オリジン社の提案するBE-4エンジンは、液体酸素と液化天然ガスを推進剤に使う計画であり、アトラスVに搭載するには、もはや新しいロケットを造るのと同じぐらいの改修が必要となる。ATK社の固体ロケット案に至っては言うまでもない。ただし全社とも、自社製エンジンの初飛行は2019年に可能となる、と表明している。

現在、アトラスVを運用するユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社では、アトラスVの改修か、あるいは次世代機を新しく開発するかの検討を進めており、近いうちに将来のロードマップを公表するとしている。

 

■Aerojet Rocketdyne Responds to Air Force Request for Information With New American Rocket Engine Solution | Aerojet Rocketdyne

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