ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社は9月17日、人工衛星CLIOを搭載した、アトラスVロケットの打ち上げに成功した。CLIOは、目的や性能、運用機関などの情報がほとんど明らかにされていない、謎の人工衛星である。

ロケットは東部夏時間2014年9月16日20時10分(日本時間2014年9月17日9時10分)、米フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル空軍ステーションのSLC-41から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約2時間50分後に衛星を分離した。

CLIOはロッキード・マーティン社が製造した衛星だ。しかし、衛星の目的や質量、性能などは明らかにされていない。また、運用を行うのも米国の政府機関としか発表されておらず、多くが謎に包まれている。

ただ、衛星は同社のA2100と呼ばれる、商業用の通信衛星に良く使われる衛星バスを用いて製造されたことは明らかにされており、しがたって通信衛星である可能性が高いと見られる。また静止通信衛星であるなら、打ち上げに使われるアトラスV 401の打ち上げ能力からして、衛星の打ち上げ時の質量は4,950kg以下ということになる。

また、かつて2009年9月に、やはり詳細が秘匿された、PANと呼ばれる衛星が打ち上げられている。PANもロッキード・マーティン社が開発を担当し、A2100バスが使用され、打ち上げにはアトラスV 401が使われた。したがって、CLIOはPANの同型の2号機、あるいは後継機である可能性が高い。

PANについては、ロッキード・マーティン社は「PANには既存の民生部品が多く使われている」と発表しており、高性能なカメラや特殊なセンサなどを必要としない、民生品の流用で済むような衛星、つまり通信衛星である可能性が示唆された。そして打ち上げ後には、米空軍から「PANは通信衛星である」との声明が出ている。

ちなみに名前のCLIO(クリオと発音する)とは、おそらくギリシア神話に登場する女神クレイオーから取られていると思われるが、すべて大文字表記であるため、何らかの頭文字から取られた名前である可能性もあろう。PAN(パーン、英語ではペンと発音する)もギリシア神話に出てくる神の名前であるが、公式にはPalladium At Nightの略であると説明されている。

アトラスVはロッキード・マーティン社によって開発されたロケットで、ボーイング社のデルタIVロケットと共に、ロッキード・マーティン社とボーイング社の共同出資で設立された、ULA社によって運用されている。

今回の打ち上げに使われたのはアトラスV 401と呼ばれる構成で、これはフェアリングの直径が5m、固体ロケットブースターは装備せず、セントール上段にRL10エンジンが1基、ということを示している。アトラスV全体を通しての打ち上げ回数は今回で49機目となり、2007年に一度予定より低い軌道に衛星を投入してしまった以外は、安定した成功を続けている。

なお、ロケットの第1段には、ロシアのNPOエネルゴマシュ社が製造したRD-180エンジンが使われており、昨今の米露関係の悪化により、近い将来使用できなくなる可能性が持ち上がっている。

今年5月には、ロシアのロゴージン副首相が、軍事衛星の打ち上げにロシア製エンジンの使用を禁止することを匂わせる発言をしており、また米国では、それに反発、対応する形で、国産の代替エンジンを開発する動きが始まっている。

 

■ULA Atlas V Launches CLIO - United Launch Alliance
http://www.ulalaunch.com/ula-launches-its-60th-mission-from-cape.aspx