5月16日、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から飛び立ったプロトンM/ブリーズMロケットが打ち上げに失敗した。昨年7月の打ち上げ失敗からわずか10ヶ月でのことであった。

この10年に限っても、プロトンMは94機中9機の打ち上げに失敗しており、打ち上げ成功率は90%ほどと、現代のロケットにしては低い。また、ほぼ月に1機のペースで打ち上げられていること、これまでプロトン・ロケットは400機近く打ち上げられていることを考えると、この数字はかなり低いものだと言えよう。

以下に、この10年で起きた打ち上げ失敗を示す。

・2006年2月28日 プロトンM/ブリーズM、アラブサット4Aの打ち上げに失敗

アラブサット4A(バダー1)を搭載して打ち上げるも、ブリーズMの2回目の燃焼が早期に停止し、予定通りの軌道に投入できなかった。その後、衛星側のスラスターと月フライバイを駆使した救出が検討されたが、結局採算が取れないと判断され、軌道を離脱させ処分された。

その後の調査により、酸化剤を油圧するポンプのノズルに異物が挟まり、酸化剤が正常に供給されなくなってしまったためであったと結論づけられた。

・2007年9月5日 プロトンM/ブリーズM、JCSat 11の打ち上げに失敗

日本の通信衛星JCSat 11を搭載して打ち上げるも、第1段と第2段の分離に失敗、墜落した。その後の調査で、第1段と第2段を分離するための爆破ボルトが起爆しなかったこと、またそれを起爆する点火用ケーブルに損傷があったことが明らかになった。

・2008年3月14日 プロトンM/ブリーズM、AMC-14の打ち上げに失敗

通信衛星AMC-14を搭載して打ち上げるも、ブリーズMの2回目の燃焼が早期に停止してしまい、予定通りの軌道に投入することができなかった。衛星側のスラスターを使えば静止軌道に辿り着ける可能性があったものの、衛星を保有するSESアメリコム社は放棄を決定、米国防総省に売却した。その後米国防総省は同衛星を静止軌道に到達させることに成功した。

その後の調査で、ブリーズMの排出ガスの配管が破裂し、ターボ・ポンプを傷付け、停止させてしまったためであることが判明、その対策として配管を厚くする改良が加えられた。

・2010年12月6日 プロトンM/ブロークDM-3、グロナスMの打ち上げに失敗

3機の測位衛星グロナスMを搭載して打ち上げるも、軌道への投入に失敗した。原因はDM-3(上段)に酸化剤を入れ過ぎていたためであった。DM-3はプロトンの最上段に搭載されており、衛星を目標の軌道に投入する役目を持つ。DM-3は以前から使われていたが、この打ち上げで使われたのは新型で、従来より大型の推進剤タンクを持っていた。しかしそこへ、作業員が従来と同じ感覚で酸化剤を充填してしまい、過剰に入れ過ぎてしまったのである。

・2011年8月17日 プロトンM/ブリーズM、エクスプレースAM-4の打ち上げに失敗

通信衛星エクスプレースAM-4を搭載して打ち上げるも、上段ブリーズMが問題を起こし、予定とは異なる軌道に投入してしまった。その後エクスプレースAM-4は破棄されることとなった。

原因はブリーズMの第3回と第4回の燃焼の間に行われる、姿勢制御のために確保された時間が短すぎ、十分に姿勢が制御できないまま第4回の燃焼を始めてしまったためであったとされる。

・2012年8月7日 プロトンM/ブリーズM、テルコム3とエクスプレースMD2の打ち上げに失敗

通信衛星テルコム3とエクスプレースMD2を搭載して打ち上げるも、ブリースMの3回目の燃焼で問題が発生し、予定していた軌道への投入に失敗した。

その後の調査で、原因は加圧系統のある部品が、仕様書通りに製造されていなかったためだと結論づけられた。

・2012年12月8日 プロトンM/ブリーズM、ヤマル402の打ち上げに失敗

通信衛星ヤマル402を搭載して打ち上げるも、ブリーズMの4回目の燃焼が予定より約4分ほど早く終了してしまい、予定していた軌道への投入ができなかった。その後ヤマル402側のスラスターを使い、予定していた静止軌道へ辿り着くことはできたが、そのせいで衛星の寿命が4年ほど短くなってしまった。

その後の調査で、通常よりも3回目と4回目の燃焼の間に行われる慣性飛行の時間が長く、その間に酸化剤の四酸化二窒素の粘性が変化、そのまま4回目の燃焼をスタートしたためキャビテーションが発生し、ターボ・ポンプのベアリングが破損したためであったと結論づけられた。

・2013年7月2日 プロトンM/ブロークDM-03、グロナスMの打ち上げに失敗

3機の測位衛星グロナースMを搭載して打ち上げるも、離昇直後に姿勢を崩し、墜落した。その後の調査で、ロケットに取り付けられているセンサーの一部が、通常とは逆向きに取り付けられてしまったことが原因であったと突き止められた。

・2014年5月16日 プロトンM/ブリーズM、エクスプレースAM4Rの打ち上げに失敗

エクスプレースAM4Rを搭載して打ち上げるも、第3段の燃焼中に何らかの不具合が起き、墜落した。原因は現在も調査中。

このように、2006年からは、ほぼ毎年1機のペースで打ち上げに失敗していることになる。

失敗の一覧を見ると、プロトンの打ち上げ失敗は大きく2種類、上段のブリーズMの設計上の問題によるものと、ブリーズMを含めたプロトンM全体の製造、組み立て上の問題によるものに分けることができる。

前者は2008年のAMC-14や2011年のエクスプレースAM4、2012年のヤマル402の失敗に見られるように、そもそもブリーズMの設計に問題があり、実際に飛ばしたことで初めてそれが露見したケースだ。ただ、ブリーズMは最大で24時間もの宇宙航行に加え、最大8回ものエンジン再点火が可能な、極めて先進的なロケットであり、また運用が始まったのは1999年とまだ比較的新しく、運用初期での多少の失敗は仕方がないと言える。

しかし一方で、仕様書通りの部品が使われていなかったり、部品の取り付け方を間違えたり、バルブに異物が混入していたり、さらには推進剤を入れすぎるなどといった、通常では起こり得ないようなミスが、それも頻繁に起きている。1度や2度であれば欧米のロケットでも起きたことがあるが、ここまで続くのは、製造や組み立ての体制に、大きな問題があるのは明白だ。

ロシアではかねてより、こうした現場の体質を改善すべく努力が行われており、その一貫として、今年3月6日には「統一ロケット・宇宙社」が設立された。これはロシアにあるRKKエネールギヤ社やフルーニチェフ社、TsSKBプラグリェース社などの宇宙企業を一つにまとめる(従来のメーカーは子会社となる)というもので、宇宙産業の改革を進めている、ロシアの副首相であるドミートリィ・ロゴージン氏の肝入りで立ち上げられた。これからまさに本格的な改革が始まろうとしている最中に今回の事故が起き、ロゴージン副首相らにとっては冷水を浴びせられた格好だ。

ロゴージン氏は先月29日、自身のTwitterの中で、「米国はトランポリンで国際宇宙ステーションに行けばいいのでは」と発言した。ロゴージン氏はウクライナ問題を巡って米国から制裁を受けており、それに対する仕返しとして、ソユーズ宇宙船による米国の宇宙飛行士の輸送を停止させることを暗に匂わせたわけだ。ここ最近の国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送はロシアのソユーズ宇宙船のみが担っており、さらに今後数年それが続くことへの皮肉が込められている。

しかし今回のプロトンMの打ち上げ失敗を受け、かつてNASAでスペースシャトルの計画責任者を務めた経験を持つウェイン・ヘイル氏は、Twitterでこう言い返した。
「ロシアのプロトンロケットは再び失敗し、米国のデルタロケットは連続で成功している。トランポリンが必要なのは誰だろうね?」

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