幸塚麻里子氏(東京大学大学院)らの研究グループは、将来火星から地球へ持ち帰られたサンプルを分析する際に、火星の微生物がサンプルから漏洩するのを防ぎつつ、サンプルに含まれる微生物の分析を可能とする技術の開発に成功したことを発表しました。
■炭酸カルシウムの結晶に封じ込めた微生物の分析に成功
先日打ち上げられたNASAの火星探査車「パーセベランス(Perseverance)」は、NASAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で取り組む火星からのサンプルリターンミッションにおいて、サンプルの採取と保管容器への封入という最初のステップを担っています。
パーセベランスによって採取されたサンプルは、別の探査車による回収、小型ロケットによる打ち上げ、待機していた探査機による地球への持ち帰りというステップを経て、順調であれば2031年には地球へ届けられることになります。つまり、今から11年後には人類が火星のサンプルを入手し、地上の研究室において詳細に分析できるかもしれないのです。
分析において注意しなければならないのは、研究対象でもある火星生まれの生命体そのものです。現時点では存在するかどうか不明ですが、もしもサンプルに生きた微生物が含まれていれば地球の生態系で拡散する可能性も考えられるため、サンプルは隔離施設で管理される必要があります。研究グループによると、サンプルの分析時には加熱処理とアルカリ処理による二重の滅菌を施した上で施設から持ち出すことが検討されているものの、この処理によってサンプル内部の有機物が壊されてしまう可能性が問題になっているといいます。
そこで研究グループは、微生物の不活化と分析を両立させる方法として、炭酸カルシウムの結晶粒に微生物を封じ込める処理を試みました。その結果、微生物が不活化されたとともに、今回の研究にも関わった鈴木庸平氏(東京大学大学院)らが以前に開発した岩石内部の生命分析技術を用いることで、結晶粒に封じ込めた微生物の分析にも成功したといいます。
実験で用いられた大腸菌は結晶粒に封じ込められた後も細胞の形状が明確に残っていて、DNAを構成する分子も保存されていたといいます。また、炭酸カルシウムの結晶を形成する過程で飽和した塩化カルシウム溶液を加えた際に、大腸菌の増殖能力やウイルス(バクテリオファージT4)の感染能力が1分ほどで失われたとされています。
今回の成果について研究グループは、サンプルに含まれる生命の不活化と検出を両立可能な技術の開発に成功したものであると同時に、塩化カルシウムを用いた新たな不活化技術として新型コロナウイルスなどの感染症対策に応用できる可能性にも期待を寄せています。
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Image Credit: Kouduka et al.
Source: 東京大学
文/松村武宏