こちらは、「おとめ座(乙女座)」の方向約3000万光年先の銀河「M104(Messier 104)」です。「ソンブレロ銀河(Sombrero Galaxy)」の愛称で記憶している方も多いでしょう。
ただ、愛称の由来になったつばの広い帽子とは異なり、この画像のソンブレロ銀河は内側の輝きが弱く、全体的に幅広のリング構造をしているように見えるのが意外かもしれません。その理由は、人の目では捉えられない赤外線で観測されているからです。
リング状に分布するソンブレロ銀河の塵をウェッブ宇宙望遠鏡が観測
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータを使って作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ウェッブ宇宙望遠鏡や「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、MIRIは多環芳香族炭化水素(ベンゼン環を2つ以上持つ化合物の総称、PAH)から放出された赤外線を検出しており、画像ではソンブレロ銀河におけるリング状の塵の分布が示されています。
かつてアメリカ航空宇宙局(NASA)が運用していた赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー(Spitzer)」による観測ではソンブレロ銀河の塵の分布は滑らかに見えていましたが、ウェッブ宇宙望遠鏡は複雑な塊状の構造を赤外線では初めて捉えました。こうした塊状の構造は新たな星を生み出す星形成領域の存在を示している可能性があるものの、ソンブレロ銀河の星形成はそれほど活発ではなく、太陽の質量に換算して1年に1個未満の星しか形成されていないといいます(天の川銀河では1年に2個くらい)。
また、ソンブレロ銀河には約2000個の球状星団があり、天文学者が星を研究する上で天然の実験室として機能しています。1つの球状星団には同じ年齢の星が何千個もあるものの、質量などの性質はそれぞれ異なっているため、良い比較研究の対象になっているということです。
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とハッブル宇宙望遠鏡(HST)で観測された「ソンブレロ銀河(M104)」の比較動画】
(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Hubble Heritage Team (STScI/AURA), N. Bartmann (ESA/Webb); Music: Stellardrone - The Night Sky in Motion)
冒頭の画像はSTScIをはじめ、NASAや欧州宇宙機関(ESA)から2024年11月25日付で公開されています。
- 幻の銀河とも呼ばれる渦巻銀河「M74」 ウェッブ宇宙望遠鏡が再び撮影(2024年11月5日)
- 耳で聴く「ソンブレロ銀河」 観測データを使用した作品をNASAが公開(2023年6月26日)
Source
- STScI - Hats Off to NASA's Webb: Sombrero Galaxy Dazzles in New Image
- NASA - Hats Off to NASA’s Webb: Sombrero Galaxy Dazzles in New Image
- ESA - Sombrero Galaxy dazzles in new Webb image
- ESA/Webb - Sombrero Galaxy dazzles in new Webb image
文・編集/sorae編集部
#ソンブレロ銀河 #M104 #ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡