こちらは「いて座(射手座)」の方向約2万7000光年先にある超大質量ブラックホール「いて座A*」(いてざエースター、質量は太陽の約400万倍)を電波で観測して得られたデータをもとに作成された画像です。国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope: EHT)」が2024年3月27日付で公開しました。
EHTは銀河の中心部分に存在するとされる超大質量ブラックホールの観測と研究を行っている研究チームです。これまでに「おとめ座(乙女座)」の方向約5500万光年先の楕円銀河「M87」の中心部にある超大質量ブラックホール(質量は太陽の約65億倍)の周辺の画像を2019年4月に、天の川銀河の中心部にあるいて座A*周辺の画像を2022年5月にそれぞれ初公開しています。EHTから公開された超大質量ブラックホールの画像については以下の関連記事もご覧下さい。
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今回EHTから公開されたのは、2017年4月に取得された観測データの分析結果をもとに描き出された、いて座A*周辺の偏光画像です。偏光とは、特定の方向に偏って振動しながら空間を伝わる電磁波(光)のこと。電磁波はもともと様々な方向に振動する波が入り混じっていますが、何らかの理由で振動が偏ったものを偏光と呼びます。身近なところでは、水面などで反射した偏光をカットしてまぶしさを軽減させる偏光サングラスなどに応用されています。
前掲の画像では、いて座A*周辺から届いた電波の偏光方向が線で表されています。EHTによると、ブラックホールの周辺では磁力線の周りで渦巻く粒子が磁力線に対して垂直な偏光パターンを生じさせるのだといいます。つまり、ブラックホール周辺から届いた電波の偏光を調べることで、間接的にブラックホール周辺の磁力線を可視化することができるというわけです。
EHTはM87の超大質量ブラックホールでもすでに同様の分析を行っていて、ブラックホール周辺の偏光画像が2021年3月に公開されています。EHTの副プロジェクト・サイエンティストを務めるナポリ・フェデリコ2世大学のMariafelicia De Laurentis(マリアフェリチア・デ・ローレンティス)教授によると、質量などの性質や存在する銀河に違いがあるにもかかわらず、いて座A*とM87の超大質量ブラックホールの磁場構造は非常に似ていることから、超大質量ブラックホールではガスの供給やジェット(細く絞られた高速なガスの流れ)の放出といった物理過程が普遍的である可能性を示唆する重要な発見だとコメントしています。
なお、EHTは2017年以降もいて座A*の観測を行っており、直近では2024年4月に実施される予定です。新たな観測を行う度に望遠鏡の追加、観測に使用する電波の帯域幅の拡大、新たな観測周波数の導入といったアップデートが行われているため、得られる画像も毎年向上しているといいます。いて座A*はM87の超大質量ブラックホールと比べて短時間で周辺の構造が変化するため、画像化には高度な手法が必要とされています。今後10年の間に計画されているEHTの拡張によって信頼性の高い動画が作成されることで、いて座A*でははっきりと確認されていないジェット噴出の様子が明らかになるかもしれないと期待されています。
Source
- Event Horizon Telescope - Astronomers Unveil Strong Magnetic Fields Spiraling at the Edge of Milky Way’s Central Black Hole
- EHT-Japan - 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く強力な磁場を発見
- ESO - Astronomers unveil strong magnetic fields spiraling at the edge of Milky Way’s central black hole
文・編集/sorae編集部