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地球は約46億年前に形成されたと考えられていますが、どのように形成されたのかについては、いまだに多くの謎が存在します。それを解明する重要な手がかりの1つが、火星からやってきた隕石である火星隕石です。火星は地球と同じ岩石惑星であり、同じように形成されたと推定されているからです。

太陽系の岩石惑星には火星以外にも水星や金星がありますが、試料の豊富さは火星が段違いに多いという特徴が挙げられます。国際隕石学会のデータベースによれば、火星隕石として登録されている隕石は335種類ありますが、水星隕石は未確定の候補が1つだけであり、金星隕石は1つもありません。

また、アメリカ航空宇宙局 (NASA) の火星探査車パーサヴィアランスは、将来的な火星試料のサンプルリターン計画に備えて試料保管機能を有していますが、サンプルが地球に届くのは早くても2033年の予定であるため、火星隕石にはそれに先行して研究を行えるというメリットもあります。

【▲ 図1: 火星隕石のNWA 7034は、その黒っぽい見た目から “ブラック・ビューティー” とも呼ばれています(Credit: NASA)】
【▲ 図1: 火星隕石のNWA 7034は、その黒っぽい見た目から “ブラック・ビューティー” とも呼ばれています(Credit: NASA)】

今回お話する火星隕石は、サハラ砂漠で見つかった「NWA 7034」と呼ばれる隕石です。その黒っぽい見た目から “ブラック・ビューティー” の別名を持つこの隕石には、学術的に注目されている点が3つあります。

1つ目は、様々な起源を持つ物質が固まった火山性の角礫岩 (かくれきがん) である事です。現在のところ研究可能な唯一の火星由来の礫岩であるNWA 7034には、玄武岩、堆積岩、ビトロファイアー (溶融後急冷されたガラス質の火山岩) 、別の隕石に由来すると思われる物質など、実に多種多様な物質が含まれています。

2つ目は、その起源が非常に古いことです。NWA 7034には、最も古いもので44億8000万年~44億4000万年前という極めて古い年代に形成されたことを示す物質も含まれています。これほど古い物質はNWA 7034と、そのペアとなる隕石にしかありません。また、火星の最も古い地殻の形成年代は45億3000万年前と推定されていることから、ほぼ火星形成直後の物質がNWA 7034に含まれていることを意味します。

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3つ目は、NWA 7034には豊富な水が含まれていることです。これは、NWA 7034が放出された場所には豊富な水があったことを示唆しており、かつて火星の表面に豊富な水が存在していたことを示す1つの証拠にもなります。

【▲ 図2: NWA 7034が形成から現在までに受けたイベントのタイムライン。注目すべきイベントとして、約15億年前にかなりの高温高圧を受けたことが挙げられます(Credit: A. Lagain, et.al.) 】
【▲ 図2: NWA 7034が形成から現在までに受けたイベントのタイムライン。注目すべきイベントとして、約15億年前にかなりの高温高圧を受けたことが挙げられます(Credit: A. Lagain, et.al.) 】

しかし、これほど興味深い特徴をいくつも持ちながらも、NWA 7034の起源については、正確なところは不明なままでした。

NWA 7034が地球にあるという事実からは、少なくとも過去に1回、火星の脱出速度である5km/sの運動エネルギーを受けるイベントがあったことはわかります。そして、そのイベントが隕石衝突であることもほぼ確実です。では、その隕石衝突の現場は火星のどこだったのでしょうか。

正確な地点は不明のままですが、NWA 7034に含まれる物質は、それが火星の南半球の高地から来たことを示唆しています。また、含まれている鉱物の分析により、NWA 7034が約15億年前にかなりの高温高圧を経験したこともわかっています。ただ、高温高圧をもたらしたのは隕石衝突だった可能性が高いものの、その時は火星から飛び出さなかった可能性があります。これらのユニークな歴史に関する詳細が明らかになれば、NWA 7034を通じて火星形成のタイムラインをより正確に構築できるはずです。

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【▲ 図3: 今回の研究で見つかった19個の二次クレーター。11の番号が付けられているカラサクレーターが、NWA 7034が放出された地点の有力な候補です(Credit: A. Lagain, et.al.) 】
【▲ 図3: 今回の研究で見つかった19個の二次クレーター。11の番号が付けられているカラサクレーターが、NWA 7034が放出された地点の有力な候補です(Credit: A. Lagain, et.al.) 】

カーティン大学のAnthony Lagain氏らの研究チームは、NWA 7034が火星のどのクレーターに起源を持つかを検出する試みをしました。

研究チームがまず焦点を当てたのは、一次クレーターに関連して生じた二次クレーターの特定です。最初のクレーターである一次クレーターが形成された時に生じた破片は、脱出速度を超えて宇宙空間に飛び出すものもあれば、再び火星表面に戻ってくるものもあります。二次クレーターとは、一次クレーターの形成時に放出され、その後火星表面に戻ってきた破片によって生じる、一次クレーターから放射状に分布するクレーターのことです。

そこでまず、研究チームは直径50m以上の大きさを持つ約9000万個のクレーターの中から、大きさや空間的分布などの数値に基づき、二次クレーターを検索しました。検索エンジンは、カーティン大学が主導して作成した機械学習アルゴリズムです。その結果、直径150m未満の二次クレーターを含む放射状分布がいくつか見つかり、その中から19個の大きなクレーターが特定されました。

【▲ 図4: NWA 7034が火星を飛び出すまでに経験したイベントの推定された歴史の概略図(Credit: A. Lagain, et.al.)】
【▲ 図4: NWA 7034が火星を飛び出すまでに経験したイベントの推定された歴史の概略図(Credit: A. Lagain, et.al.)】

今回特定された19個の二次クレーターそれぞれの形成年代と、過去の研究を合わせた結果、NWA 7034の詳細な起源が明らかとなりました。

まず、NWA 7034の最も古い物質は、火星の南半球にあるキンメリア–シレヌム大陸 (Terra Cimeria-Sirenum) で約44億年前にマグマから生成され、固まりました。そして約15億年前、同大陸の北東地点に隕石が衝突し、直径40kmのホジルトクレーター (Khujirt crater) が形成されました。このクレーターの形成時に飛び出した噴出物のうち、火星を脱出しなかったものはホジルトクレーターの周辺に堆積しました。約15億年前に高温高圧をもたらしたのは、この時の隕石衝突だったと考えられています。

それから十数億年が経ち、今から1000万年~500万年前に、直径10kmのカラサクレーター (Karratha crater) が形成されました。この時、一部の破片が脱出速度に達して火星を離れ、その後に地球へと落下しました。これが、現在はNWA 7034と呼ばれている隕石です。

なお、カラサクレーターは直径25kmのダンピアクレーター (Dampier crater) の中にあるクレーターですが、ダンピアクレーターは約15億年前に形成されたホジルトクレーターよりも更に古い時代に形成されたものです。NWA 7034の分析結果は、NWA 7034の構成物質がダンピアクレーターのものではなく、ホジルトクレーターからの噴出堆積物由来であることを示しています。

この研究結果は、極めて興味深い火星隕石であるNWA 7034について、更に詳細な歴史を明らかにするものです。NWA 7034は極めて古い時代の火星のサンプルであり、その複雑な起源が明らかになったことで、火星形成の、ひいては地球形成の詳細な歴史も明らかになることでしょう。また、NWA 7034の直接の故郷であることが判明したカラサクレーターは、将来の火星探査の有力な候補地点になるかもしれません。

 

関連:地球に落下した火星由来の隕石、その一部の起源と思われるクレーターが絞り込まれた

Source

  • Image Credit: NASA, A. Lagain, et.al.
  • A. Lagain, et.al. “Early crustal processes revealed by the ejection site of the oldest martian meteorite” (Nature Communications)

文/彩恵りり

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