米航空宇宙局(NASA)は8月5日、青く輝く丸い地球の表面を月が通り過ぎる様子を捉えた、画像を公開した。
これは地球から約150万km離れた太陽・地球系のラグランジュ第1点に投入されている米海洋大気庁(NOAA)の人工衛星「DSCOVR」が撮影したもので、地球を背景に、月が裏側を見せながら、その手前を通過する様子が克明に写っている。撮影されたのは米東部夏時間7月16日の15時50分から20時45分にかけてで、月は北米大陸近くの太平洋上を通過している。
太陽・地球系のラグランジュ点とは、太陽と地球との間の引力が均衡している場所の一つで、その第1点は、太陽と地球との間にある。ここでは太陽や地球との位置関係が常に同じになるため、太陽から地球に向けて飛んでくる太陽風の観測や、その太陽風の地球との相互作用の観測に適しており、また地球の昼の面を常に観測し続けることもできる。さらに、地球と衛星の間には月の軌道が通っているため、今回のような画像を撮ることも実現した。
撮影したのは、NASAが開発した「EPIC」(Earth Polychromatic Imaging Camera)というカメラで、紫外線から近赤外線まで10種類の波長で撮影することができる。その先端には望遠鏡が装備されており、この画像で月が実物よりも大きく見えるのは、そのレンズの圧縮効果によるものである。
なお、月の右側に不自然な部分が生じているが、これはEPICの仕組みによるものである。EPICは赤、緑、青色の単色の画像を30秒ごとに撮影し、その3枚を結合することで自然な色の画像を生成している。そのため、月のように速く移動する物体を撮影すると、その3枚を撮影するまでに月が大きく移動してしまうことから、このような不自然な部分ができてしまっている。
DSCOVRはもともと、1990年代に当時のアル・ゴア米副大統領の肝いりで始まった計画で、地球表面からのエネルギーの放射量やエアロゾル、オゾン、雲の動きなどを観測すること、そして青く輝く地球の写真、通称「ブルー・マーブル」を、ほぼリアルタイムで世界中に配信するというミッションを目的としていた。ゴア副大統領はトリアーナによって、常に最新の「ブルー・マーブル」を世界中に配信することで、環境問題や世界平和への意識を高めることを期待していたという。
しかしこのような計画は税金の無駄遣いであるとの非難がなされ、また他に搭載される観測機器も、すでに今ある他の衛星からのデータで十分であるという声もあったことから、衛星はほぼ完成していたにもかかわらず、2001年に計画は中止されることになった。
その後、衛星は保管され続けていたが、2009年にNOAAが資金提供を行い、太陽風の観測衛星「ACE」の後継機として、トリアーナ改めDSCOVRとして復活することになった。ミッションの主役はNASAからNOAAへ移り、観測機器などは変わらなかったものの、NOAAの要求に合わせて調整が行われ、新たに宇宙天気の観測を目的とした衛星として生まれ変わり、17年越しにして、ようやく打ち上げられることになった。
現在は観測機器の試験などが進められており、今回公開された画像はその中で撮影されたものである。正式な運用開始は今年の夏ごろに予定されている。ミッション期間は5年が予定されている。
またDSCOVRは、常時「ブルー・マーブル」を撮影することができるため、今後も新しい「ブルー・マーブル」の画像が公開され続けることになる。NASAによると、公開の開始は今年9月ごろを予定しており、毎日、撮影から12時間から36時間後に画像がアップされるという。
■From a Million Miles: The Moon Crossing the Face of Earth
http://www.nasa.gov/feature/goddard/from-a-million-miles-away-nasa-camera-shows-moon-crossing-face-of-earth