ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社は1月20日、軍用通信衛星MUOS-3を搭載した、アトラスVロケットの打ち上げに成功した。

ロケットは米東部標準時2014年1月20日20時4分(日本時間2014年1月21日10時4分)、米フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル空軍ステーションのSLC-41から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約2時間53分後に衛星を分離した。

MUOS-3(ミューオス・スリー)は米海軍によって運用される通信衛星で、航空機や艦艇、地上車両や兵士など移動体向けの通信を担当する。以前まで、この種のシステムはUHFフォロー・オン(UHF Follow-On)、通称UFOと呼ばれる衛星が担っていたが、MUOSはそれを代替するものになる。全部で5機が打ち上げられる予定となっており、今回で3機目となる。

製造はロッキード・マーティン社が担当し、打ち上げ時の質量は6,740kgで、高度約36,000kmの静止軌道で運用される。

打ち上げに使われたアトラスVは、ロッキード・マーティン社によって開発されたロケットで、ボーイング社のデルタIVロケットと共に、ロッキード・マーティン社とボーイング社の共同出資で設立されたULA社によって運用されている。これまでに52機目が打ち上げられ、2007年に一度予定より低い軌道に衛星を投入してしまった以外は安定した成功を続けており、今回で42機連続での成功にもなった。

今回の打ち上げに使われたのはアトラスV 551と呼ばれる構成で、これはフェアリングの直径が5m、固体ロケットブースターを5基装備し、セントール上段にRL10エンジンが1基、ということを示している。

アトラスVの第1段には、ロシアのNPOエネルゴマシュ社が製造したRD-180エンジンが使われており、このエンジンを巡っては米国の国内、またロシア側からも、その使用や輸出に関して揉めている状況が続いている。ロシアのロゴージン副首相は、軍事衛星の打ち上げにロシア製エンジンの使用を禁止することも匂わせており、今後、今回のような軍事衛星の打ち上げにアトラスVが使えなくなる可能性もある。ロゴージン副首相の発言後も、RD-180は定期的に輸出されており、差し迫った状況にはないものの、現在米国では国産の代替エンジンを開発する動きが始まっている。

また前回の打ち上げと同じく、アトラスVの第2段には、以前まで使われていたRL10Aロケットエンジンに代わって、RL10C-1と呼ばれる新しいエンジンが使用されている。RL10は米国で50年以上使われて続けているロケット・エンジンのシリーズで、これまで数多くの人工衛星や惑星探査機などを打ち上げ続けてきた傑作エンジンである。推進剤には液体水素と液体酸素が用いられ、複数回点火できる能力を持ち、衛星をさまざまな軌道に、かつ正確に送り込むことが可能だ。

RL10C-1は、デルタIVロケット向けに生産されたものの在庫が余ってしまっているRL10Bエンジンを、アトラスVで使用できるように改造したものだ。例えば炭素繊維強化炭素複合材料を使ったノズルや、燃焼室やインジェクターなどはRL10Bのものが使われている。一方、ターボ・ポンプはRL10Aのものが用いられており、またRL10AにあってRL10Bにはない、点火システムの冗長化や、推進剤の混合比率を制御するための電子機器の搭載といった改造も施されている。RL10Cはいわば、RL1AとRL10Bを混ぜ合わせたようなエンジンだ。さらに、軌道上で運用できる時間も、従来の720秒から2000秒まで、3倍弱ほどにまで向上している。

なお、アトラスVには、第2段にエンジンを2基並べて搭載する(xx2)構成があるが、RL10C-1はノズルの直径が大きいため、並べて搭載することができない。したがってxx2構成のアトラスVは、今後もRL10Aを使い続けることになる。

また、RL10C-1をさらにデルタIVロケット向けに改造したRL10C-2も開発中で、数年のうちにデビューする予定となっている。

次回のULA社の打ち上げは、2015年1月29日に予定されている、NASAの地球観測衛星SMAPを搭載したデルタIIロケットの予定だ。

 

■United Launch Alliance Successfully Launches the U.S. Navy’s Mobile User Objective System-3 - United Launch Alliance
http://www.ulalaunch.com/ula-successfully-launches-navys-muos3.aspx