「プロトンM」ロケット、通信衛星「エクスプリェースAM8」の打ち上げに成功

ロシア連邦宇宙庁、GKNPTsフルーニチェフ社らは2015年9月15日、通信衛星「エクスプリェースAM8」を搭載した「プロトンM/ブロークDM-03」ロケットの打ち上げに成功した。プロトンMロケットの打ち上げは、5月に起きた失敗以来2機目の成功となり、またブロークDM-03上段を積んだ打ち上げとしては、3回目にして初の成功となった。

ロケットはカザフスタン時間2015年9月15日1時ちょうど(日本時間2015年9月15日4時ちょうど)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地の81/24発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約10分後に上段のブロークDM-03を分離した。

そしてブロークDM-03は3回にわけた燃焼をこなし、打ち上げから約6時間37分後に衛星を分離し、所定の軌道へ投入した。米軍の宇宙監視ネットワークも、衛星が計画通りの軌道に入っていることを確認している。

静止衛星の打ち上げでは、多くの場合、静止軌道の一歩手前の、静止トランスファー軌道に投入されるが、今回は静止軌道に直接投入されている。ただし厳密には完全な静止軌道ではないため、衛星側で微調整が必要となる。

●エクスプリェースAM8

エクスプリェースAM8は、ロシアのカスミーチスカヤ・スヴャース社が運用する通信衛星で、ロシアのISSリシトニョーフ社とタレス・アレニア・スペース社が製造した。ISSリシトニョーフ社が衛星本体を、タレス・アレニア・スペース社が搭載機器をそれぞれ担当している。

衛星には24基のCバンド、12基のKuバンド、2基のLバンド・トランスポンダーが搭載されており、西経14度の静止軌道から、北米、南米、アフリカ、欧州に対して通信サーヴィスを行う。

打ち上げ時の質量は2100kg、設計寿命は15年が予定されている。

●プロトンM

今回のプロトンMの打ち上げは、今年5月16日に「メクスサット」の打ち上げに失敗して以来、2機目となった。再開1号機は8月28日に打ち上げられ、成功している。

プロトンMは5月の事故だけでなく、ここ数年に、1年に1機ほどのペースで失敗を起こしており、信頼性はほとんど失われている状態にある。

プロトンMは、ロシアにとって大型の静止衛星を打ち上げられる、現時点では唯一のロケットであり、また自国の衛星のみならず、外国の商業衛星の打ち上げも担っていることから、その信頼回復は急務となっている。ロシアは現在、プロトンMの後継機となる「アンガラ」ロケットの開発も進めてはいるが、完全に代替が完了するのは2020年ごろの予定で、それまではプロトンMを使い続けるしかない。

プロトンMは今後、11月までに4機の打ち上げが計画されていると伝えられており、また年内にもう1機、さらに来年1月には、欧州とロシアが共同開発した火星探査機「エクソマーズ2016」の打ち上げも予定されているなど、かなりの過密スケジュールが組まれており、ロシアの宇宙産業にとって試練のときを迎えている。

●ブロークDM-03

ブローク上段シリーズの源流は、ソヴィエト連邦が1960年代から70年代にかけて開発していた巨大ロケット「N-1」に使われた「ブロークD」にまでさかのぼる。しかし、N-1は4機すべての打ち上げが失敗に終わり、またそのすべてがブロークDよりも下段のN-1本体で起きたことから、ブロークDに点火されることは1度もなかった。

その後、ブロークDは「プロトンK」ロケットの上段として採用され、多くの打ち上げで活躍。また、知られているだけでも13種類の改良型が造られ、プロトンKのほか、プロトンMや「ゼニート3」ロケットにも採用され、地球低軌道を回る人工衛星から金星探査機、火星探査機まで、さまざまな打ち上げで活躍している。

今回使われたブロークDM-03は、そのシリーズの中でも一番新しく、2010年12月5日にプロトンMによって初めて打ち上げられた。しかし、打ち上げ準備中のミスによってブロークDM-03に燃料を積みすぎていたことから、プロトンMによる加速が足らず、点火する前に墜落した。

2号機は、2013年7月2日にプロトンMで打ち上げられたが、今度はプロトンMが打ち上げ直後に制御を失って墜落したことで、再びブロークDM-03は使われなかった。

今回の打ち上げで、ブロークDM-03は3号機にして、初めて宇宙空間で使われ、そして成功した。

ここ最近のプロトンMの打ち上げでは、「ブリーズM」という上段が使われることが多いが、ブロークDM-03とは製造している会社も、技術的にもまったく異なる機体である。たとえばブロークDM-03は推進剤に液体酸素をケロシンを使うが、ブリーズMは四酸化二窒素と非対称ジメチルヒドラジンの組み合わせを使っている。

両者とも、複数回のエンジン再着火が可能で、衛星を目標の軌道に正確に送り届けたり、複数の衛星を異なる軌道に投入したりといった芸当が可能だ。ただ、液体酸素は長期間の保存ができないため、軌道上での活動可能時間はブロークDM-03のほうが短い。またブロークDM-03は再着火可能な回数も少なく、機体のサイズも大きいため、搭載できる衛星のサイズが犠牲になるなど、運用の柔軟性ではブリーズMに分がある。一方、ブロークDM-03には、ブリーズMよりも重い衛星を運ぶことができるという特長がある。

ただ、衛星打ち上げ市場やロシア政府などは、柔軟な運用ができるブリーズMのほうを好む傾向があり、使用率も圧倒的に多い。また、ブロークDM-03は2012年に全5機をもって製造が終わっており、在庫は残り2機のみとなっている。

 

■ЦЕНТР им. М.В.ХРУНИЧЕВА. РН «ПРОТОН-М» УСПЕШНО СТАРТОВАЛА С БАЙКОНУРА
http://www.roscosmos.ru/21719/

Image Credit: Roskosmos

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