【▲ 小惑星「2023 DW」の想像図(Credit: NASA Asteroid Watch Twitter)】

※編注:本記事の内容は2023年3月21日時点での情報をもとにしています。本記事の公開前や公開直後に情報が更新されている可能性があることをご了承下さい。

シューメーカー・レビー第9彗星の木星への衝突が起きたり、中生代白亜紀末に起きた恐竜などの大量絶滅の原因が天体衝突だと判明したりした1990年代以降、天体衝突による文明の危機は現実的な問題であると考えられるようになりました。太陽系に無数に存在する小惑星を観測し、地球への衝突コースにあるかどうかを調べる観測体制が整うなかで、衝突の影響を評価する指標のひとつとして1999年に考案されたのが「トリノスケール」です。

【▲ 図1: 地球近傍天体研究センター (CNEOS) に掲載されているトリノスケールの和訳。過去最高記録は4であるが、1から4までの評価は、後の観測で0へと引き下げられる可能性が高いことを意味する指標でもある。 (Image Credit: 彩恵りり) 】
【▲ 図1: 地球近傍天体研究センター (CNEOS) に掲載されているトリノスケールの和訳。過去最高記録は4であるが、1から4までの評価は、後の観測で0へと引き下げられる可能性が高いことを意味する指標でもある(Credit: 彩恵りり)】

トリノスケールでは「衝突する可能性の高さ」と「衝突によって引き起こされる災害の重大さ」によって、小惑星が0から10までの11段階で評価されます。0は衝突する可能性がないか、衝突してもほとんど影響を及ぼさない小惑星に付与されるものであるため、衝突の影響が懸念されるのは1以上の値が付与された小惑星と言うことになります。

【▲ 図2: これまでにトリノスケールが1以上になったことのある58個の天体の一覧。1以上だった日数を見ればわかる通り、一度トリノスケールが1以上と評価されても、数日で0へ引き下げられるケースが大半であることがわかる。 (Image Credit: 彩恵りり) 】
【▲ 図2: これまでにトリノスケールが1以上になったことのある58個の天体の一覧。1以上だった日数を見ればわかる通り、一度トリノスケールが1以上と評価されても、数日で0へ引き下げられるケースが大半であることがわかる(Credit: 彩恵りり)】

2002年に163132番小惑星「2002 CU11」に初めてトリノスケール1が付与されて以来、トリノスケール1以上の値が付けられた小惑星は50個以上あり、毎年数個の小惑星がトリノスケール1以上と評価がされています。

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そして最近、トリノスケール1と評価されたことで話題となった小惑星があります。それは「2023 DW」です。

【▲ 図3: 2023 DWの初観測画像。 (Image Credit:Alain Maury / San Pedro de Atacama Celestial Explorations) 】
【▲ 図3: 2023 DWの初観測画像(Credit:Alain Maury / San Pedro de Atacama Celestial Explorations)】

2023 DWは2023年2月26日、サンペドロ・デ・アタカマ天文探査が行っている小惑星自動探査プログラム「MAP」のデータから、Georges Attard氏やAlain Maury氏によって発見されました。2023 DWはアテン群に分類されている小惑星で、太陽に最も近づく時の距離が7400万km(金星の公転軌道の内側)、最も遠ざかる時の距離が1億7000万km(地球の公転軌道の外側)になる楕円形の公転軌道を約8.9か月かけて公転しています。

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発見以降に観測データが蓄積されて公転軌道が解析されると、2023 DWは2046年から2054年にかけて地球に接近し、わずかながらも衝突する可能性があることが判明しました。特に2046年2月14日の接近時には、当初数百分の1の確率で衝突する可能性があることがわかりました。

Piero Sicoli氏やSteven M. Tilley氏は、仮に2046年に衝突するとした場合、2023 DWはインド亜大陸の南から北アメリカ大陸の東側沖までを結ぶ直線状のエリアのどこかに落下すると推定しています。2023 DWの推定直径は約48mで、衝突時に放出されるエネルギーは約4メガトンと推定されます。これは1945年8月に広島市へ投下された原爆「リトルボーイ」の約270倍に相当します。このため、2023 DWはトリノスケール1と評価されました。

【▲図4: 2023 DWの衝突確率と通過距離の不確かさの推移。最新のデータでは衝突確率が急激に下がっており、これは更なる観測の積み重ねで衝突確率が0になる兆候であると見られる。なお、グラフ中央部の紫の実線の太さは、通過距離の不確かさに対する地球の直径の比率にほぼ対応している。通過距離の不確かさに対して、地球の大きさは見えづらいくらいの細い幅であることに注意。 (Image Credit: 彩恵りり) 】
【▲図4: 2023 DWの衝突確率と通過距離の不確かさの推移。最新のデータでは衝突確率が急激に下がっており、これは更なる観測の積み重ねで衝突確率が0になる兆候であると見られる。なお、グラフ中央部の紫の実線の太さは、通過距離の不確かさに対する地球の直径の比率にほぼ対応している。通過距離の不確かさに対して、地球の大きさは見えづらいくらいの細い幅であることに注意(Credit: 彩恵りり)】

とはいえ、これは不確かさが極めて大きなデータに基づく結果であることに注意しなければなりません。例えば、最も高い数値である衝突確率0.28%と見積もられた3月12日時点の評価では、2046年の接近時における地球の中心に対する2023 DWの推定接近距離には左右に690万kmの不確かさがあります。これは地球の直径(約12700km)の1000倍以上であり、ほとんどの場合において衝突せずに通過する確率が高いことを意味します。

また、3月4日から3月9日までは観測記録がありませんでしたが、これは2023 DWの見かけの位置が月に近く、月の明るさが観測を妨げていたためです。見かけの位置が月から遠くなった3月9日以降、2023 DWの観測は再開しました。そして3月16日、2046年2月14日の最接近時の衝突確率は0.028%まで下がり、トリノスケール0に引き下げられました。3月20日には2023 DWの項目そのものが削除され、衝突リスクのない平凡な小惑星に格下げされました。

先述の通り、2023 DWのようなケースは珍しくありません。今年だけでも、2023 DWの前後でトリノスケール1だった期間のある小惑星として「2023 AJ1」と「2023 DZ2」があります(図2を参照)。トリノスケール1以上の期間が1か月以上続いた例は、2014年に引き下げられた「2007 VK184」以来存在しません。今回の2023 DWのケースでも、トリノスケール1だった期間は10日間と、それほど長いというわけではありませんでした。このようなケースは今後も多数出現すると思われます。

 

Source

文/彩恵りり

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