ダイヤモンドより硬い「ロンズデイル石」は天然の “化学蒸着” でできる可能性が判明
【▲ 図1: キャニオン・ディアブロ隕石に含まれる1mm未満のダイヤモンドの表面には、ロンズデイル石が非常に薄い膜として存在すると言われています。 (Image Credit: Arizona State University) 】
【▲ 図1: キャニオン・ディアブロ隕石に含まれる1mm未満のダイヤモンドの表面には、ロンズデイル石が非常に薄い膜として存在すると言われています。 (Image Credit: Arizona State University) 】
【▲ 図1: キャニオン・ディアブロに含まれる1mm未満のダイヤモンドの表面には、ロンズデイル石が非常に薄い膜として存在すると言われています。 (Image Credit: Arizona State University) 】

この世で一番硬い物質はダイヤモンド、とよく言われますが、科学者はダイヤモンドを上回る硬さを持つ物質を長年探索してきました (※) 。そのような物質の候補として有力視されてきたものの1つが「ロンズデイル石 (Lonsdaleite)」 (あるいはロンズデーライト、六方晶ダイヤモンドとも呼ばれる) です。

※…しばしば誤解されますが、この場合の「硬さ」は結晶の傷つきにくさや摩擦に対する強さのことで、ビッカース硬さなどで表されます。外から力を加えられた時に変形や崩壊しにくいという意味での「硬さ」は、剛性や靭性などと呼ばれます。

ロンズデイル石は、1967年にキャニオン・ディアブロを分析した際に発見されました。同時期には、人工合成物からも天然のロンズデイル石に対応する物質が見つかっています。ロンズデイル石はダイヤモンドと同じく炭素のみで構成された結晶ですが、構造が違うことから、ダイヤモンドを上回る硬度を持つ物質ではないかと予測されてきました

【▲ 図2: (a) ダイヤモンド、 (b) 石墨、 (c) ロンズデイル石の結晶構造。 (Image Credit: Michael Ströck) 】
【▲ 図2: (a) ダイヤモンド、 (b) 石墨、 (c) ロンズデイル石の結晶構造。 (Image Credit: Michael Ströck) 】

ロンズデイル石の発見から半世紀以上経ちましたが、その物性や起源については多くの謎が残っています。天然のロンズデイル石はすべてから発見されており、不純物の影響があるため、天然のロンズデイル石を対象とした試験ではダイヤモンドより硬いとは証明されていません。一方で、人工合成されたロンズデイル石は、硬度を測定するのに十分な大きさのものが得られていません。また、「そもそもロンズデイル石という物質は存在せず、ダイヤモンドの結晶の欠陥や、複雑な組み合わせを見間違えているだけである」と指摘する研究さえ存在します。

ロンズデイル石のほとんどは、の素となるに最初から含まれているものではなく、へ落下した際の衝撃圧で生じたものだと言われています。ただし、「ユレイライト (Ureilite)」と呼ばれる隕石のグループはその例外です。ユレイライトはどの岩石よりもダイヤモンドを多く含んでいる珍しいタイプの隕石であり、その起源はサイズの天体のマントル物質であると言われています。そして、ユレイライトの一部からはダイヤモンドに関連してロンズデイル石が見つかっていることから、ロンズデイル石は微惑星内部の環境で生成されたとも予測されています。

【▲ 図3: 電子顕微鏡で観察されるサンプルであるユレイライト隕石のスライスを持つAlan Salek氏 (右) と、論文の筆頭著者のAndrew G. Tomkins氏 (左) 。 (Image Credit: RMIT University) 】
【▲ 図3: 電子顕微鏡で観察されるサンプルであるユレイライト隕石のスライスを持つAlan Salek氏 (右) と、論文の筆頭著者のAndrew G. Tomkins氏 (左) 。 (Image Credit: RMIT University) 】

モナシュ大学のAndrew G. Tomkins氏などの研究チームは、この仮説を支持する研究結果を発表しました。ロンズデイル石がどのように生成されたのかを探るため、研究チームはユレイライトに属する隕石の断面を電子顕微鏡で観察し、ロンズデイル石・ダイヤモンド・石墨 (全て炭素の単体の鉱物) がどのように分布しているのかを調べました。すると、炭素が分布するエリアの中では、ロンズデイル石は多結晶構造 (多数の結晶が組み合わさった結晶) をしていることが多く、ロンズデイル石の分布を横切るようにダイヤモンドや石墨の脈が存在することが分かりました。また、研究チームは大きさがこれまでで最大となる、約1µm (1000分の1mm) のロンズデイル石を発見しました。

これらの観察結果から、ロンズデイル石がどのように生成されたのかという点について、Tomkins氏らは次のように考えました。まず、サイズの天体のマントルの中に「C-H-O-S流体 (炭素・水素・酸素・硫黄が混ざった超臨界流体)」が存在しました。C-H-O-S流体は岩石中に含まれる石墨に付着しますが、これがロンズデイル石の生成のカギとなります。石墨とロンズデイル石は部分的に結晶構造が同じであるため、石墨を “足場” として、C-H-O-S流体からロンズデイル石の微細な結晶が成長するというのです。この説明は、今回観察したロンズデイル石の一部分が、石墨の結晶構造を置き換えたかのような形状をしている点と一致します。

やがて、急激な圧力と温度の低下によって、C-H-O-S流体からはロンズデイル石が生成しなくなり、代わりにダイヤモンドや石墨が成長しました。また、一部のロンズデイル石は構造が不安定になり、ダイヤモンドに変質したものもありました。この説明は、ロンズデイル石の中にダイヤモンドや石墨の脈が存在する観察結果と一致します。

これらの一連のプロセスは、圧力が1~100気圧程度とかなり高い点を除けば、化学工業でよく使われている化学蒸着の手法によく似ています。裏を返せば、化学蒸着の手法でロンズデイル石を合成できるかもしれないということを意味しているため、隕石の研究を既存の化学工業に応用できるかもしれません。化学蒸着は結晶の大きさを揃えたり、純度の高い結晶を合成することが得意な手法であるため、ロンズデイル石の基本的な物性を研究したり、その先の具体的な用途 (例えばダイヤモンドカッターならぬ “ロンズデイル石カッター” など) に利用できる可能性があります!

 

Source

  • Andrew G. Tomkins, et.al. “Sequential Lonsdaleite to Diamond Formation in Ureilite Meteorites via In Situ Chemical Fluid/Vapor Deposition”. (PNAS)
  • Will Wright. “Mysterious diamonds came from outer space, scientists say”. (RMIT University)
  • F. P. Bundy & J. S. Kasper. “Hexagonal Diamond—A New Form of Carbon”. (Journal of Applied Physics)
  • Zicheng Pan, et.al. “Harder than Diamond: Superior Indentation Strength of Wurtzite BN and Lonsdaleite”. (Physical Review Letters)
  • Péter Németh, et.al. “Lonsdaleite is faulted and twinned cubic diamond and does not exist as a discrete material”. (Nature Communications)
  • Travis J. Volz & Y. M. Gupta. “Elastic moduli of hexagonal diamond and cubic diamond formed under shock compression” (Physical Review B)
  • Robert Burnham. “Asteroid impacts on Earth make structurally bizarre diamonds, say ASU scientists”. (Arizona State University)
  • Michael Ströck. “File:Eight Allotropes of Carbon.png”. (WikiMedia Commons)

文/彩恵りり