夜空の片隅をクローズアップすると無数に見えてくる銀河のなかには、互いに接近して相互作用を起こし、ゆがんだ姿をしたものもあります。これまで銀河どうしが相互作用すると星形成活動が活性化されると考えられてきましたが、その証拠が天の川銀河の近くから見つかったとする研究成果が発表されました。
■大質量星を基点に広がる「扇」のような分子雲を初確認
福井康雄氏(名古屋大学)、徳田一起氏(大阪府立大学/国立天文台)らの研究チームは、天の川銀河の伴銀河である大マゼラン雲(地球からおよそ17万光年先)にある「N159」と呼ばれる星雲の2か所を、チリの「アルマ」望遠鏡を使って観測しました。
N159は「タランチュラ星雲」の通称で知られる星形成領域「かじき座30」のすぐ近くにあり、大マゼラン雲のなかでもガスの密度が最も高い領域だとみられています。研究チームが観測した2つの場所には、それぞれ太陽30個分前後の重さを持つ大質量星が分子雲(ガスの集まり)のなかで誕生しています。
高解像度を誇るアルマ望遠鏡で分子雲の構造を観測したところ、細いフィラメント状の分子雲が数本、まるで大質量星を「要(かなめ)」とした「扇(おうぎ)」のように広がりながら伸びている様子が初めて確認されました。1つのフィラメントの長さは3光年、幅はその10分の1ほどで、N159全体では100本近くが見つかっています。
フィラメントの広がりは扇のように広がる孔雀の羽のようにも見えることから、研究チームは2つの分子雲を「2羽の孔雀」と命名しています。
■「孔雀」は大小マゼラン雲が接近した結果生み出されていた
観測の結果、ひとつの疑問が生じました。2つの扇状の分子雲は互いに150光年ほど離れているにもかかわらず、なぜか分子雲が伸びている方向(発表では孔雀の向きと表現)がそろっていたのです。
分子雲の向きが偶然そろったとは考えにくいことから研究チームがその理由を検討した結果、2億年前に大マゼラン雲のすぐ近くまで小マゼラン雲が接近したとき、小マゼラン雲にあったガスの一部が大マゼラン雲の重力によって奪い取られたことが原因とみられることがわかりました。
国立天文台のスーパーコンピューターを使ってガス雲どうしが衝突する様子をシミュレートしたところ、あるガス雲に対してより小さなガス雲が衝突すると、アルマ望遠鏡で観測されたようなフィラメント状の分子雲が一斉に形成されることが判明しました。小マゼラン雲から大マゼラン雲へと落下したガスの移動と衝突が全体では大規模だったことから、形成された分子雲の向きが150光年離れた場所でも揃っていたものとみられています。
冒頭でも触れたように、銀河どうしの相互作用は星形成活動を活性化すると考えられています。大質量星の形成と銀河の相互作用を初めて結びつけることができたと語る福井氏は、今回の研究成果から相互作用銀河の観測研究がさらに発展し、大質量星が集まった星団が形成される仕組みの解明につながることを期待しているとコメントしています。
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Image: 国立天文台
Source: アルマ望遠鏡
文/松村武宏