宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月15日、日欧共同の水星探査計画「ベピコロンボ」の、日本側が開発と運用を担当する「水星磁気圏探査機(MMO)」を公開した。MMOはこのあと欧州へ送られ、欧州側が開発している探査機と結合し、2016年度に打ち上げられる予定だ。
ベピコロンボは、日本のJAXAと、欧州宇宙機関(ESA)が共同で開発している水星探査機だ。JAXAは水星周辺の磁気圏や大気を探査するMMOを、ESAは水星の表面や地下を探査する「水星表面探査機(MPO)」と、MMOとMPOを水星まで送り届けるための「水星遷移モジュール(MTM)」、そしてMMOを太陽の熱から守るためのシールドの開発を担当している。
MMOは水星の磁場を観測し、どのようににして磁場ができたのかを探る。水星は地球と同じように磁場を持つが、地球型惑星で磁場を持つのは地球と水星のみであり、両者を比べることで多くのことがわかるという。また、水星の周囲にはやはり地球と同じように磁気圏があり、形や構造はよく似ているものの、予想をはるかに超える高いエネルギー電子が存在することがわかっている。地球とは異なるメカニズムのせいなのか、それとも地球よりも太陽に近いせいなのかはまだわかっておらず、MMOによる解明が期待されている。
また水星の表面には、ほんのわずかながら、ナトリウムを主成分とする大気が存在する。MMOではその大気の構造や移り変わりを観測し、どのようにして生成され、そして宇宙空間へ消失しているいのかも探る。さらに地球の近くでは見られない、太陽の近くの強い衝撃波を観測し、そのエネルギー過程を解明することも狙う。
機体は八角柱の形をしており、側面には太陽電池と、そして鏡が張り巡らされている。水星は太陽に近いため、探査機は強い太陽光にさらされてしまう。そこで鏡を使い、太陽光を反射させ、入ってくる熱を小さくし、また探査機から宇宙空間へ放熱する効率を上げることを狙っている。さらに機体の外に出ている機器には日よけが付けられたり、鏡が使えない場所には特殊な塗料が塗られたりと、太陽光に耐えるための工夫が随所に施されている。
本体の直径は1.8m、上下に伸びているアンテナまで含めた高さは約2.4m、打ち上げ時の質量は約280kgほどという。また機体の側面からは、電場を観測するための15mの伸展アンテナが2本と、磁場を観測するための5mの伸展アンテナが4本伸びる。機体は4秒で1回転し続けることで、コマのように姿勢をさせるスピン安定法が採用されている。
MMOは欧州側の探査機や推進モジュールと合体した状態で打ち上げられ、一緒に水星まで旅をする。そして水星の北極と南極を結ぶように縦に回る極軌道に入ったところで分離される。MMOは最も水星に近い地点(近水点)が400km、最も遠い地点(遠水点)が1万2000km、周期は9.2時間の軌道を回り、観測を行う。観測期間は約1年が予定されている。
MMOという名前は、水星磁気圏探査機をそのまま英語にした「Mercury Magnetospheric Orbiter」の頭文字から取られている。打ち上げ後に「はやぶさ」や「あかつき」のような、日本語の愛称が付けられるかどうかはまだ決まっていないという。
ベピコロンボの日本側のプロジェクト・マネージャーを務める早川基教授は「40年前にマリナー10が水星に行って、誰も想像していなかった磁場があり、さらに粒子の時間変動が普通では考えられないほど早いという発見があり、私のような分野の科学者であれば、水星は一度は行ってみたい星でした。無事打ち上がって、無事に水星に着いて観測ができたら、と思っています」と期待を語った。
ベピコロンボは2016年度に、南米仏領ギアナのギアナ宇宙センターから、アリアン5ロケットで打ち上げられる予定となっている。ベピコロンボはまずロケットによって地球脱出軌道に投入され、続いてMTMに装備されているイオン・エンジンを使い、減速をするように航行する。地球よりも内側の星に行くためには、加速ではなく減速しなければならないためだ。さらに1回の地球フライバイ、2回の金星フライバイ、そして5回の水星フライバイで、これら惑星の重力も使って徐々に減速し、打ち上げから実に7年後の2024年に水星に到着する、壮大な計画だ。
「地球と水星は、距離としては近いですが、エネルギー的には遠いんですね。水星の周回軌道に入るのに必要なエネルギーを、もし地球の外側に向けて使ったとすると、太陽の重力圏を脱出できてしまうぐらいになります」(早川教授)
MMOはすでに完成し、日本側での試験も完了した状態にある。このあと4月中旬ごろに欧州側へと輸送され、MPOやMTMなどの他の部分と結合した状態での試験が始まる予定となっている。