中国の月探査機「嫦娥三号」と、それに搭載されていた月探査車「玉兎号」が月に到着してから約9ヶ月が経った。
着陸直後こそ、世界的にも数十年ぶりの月面着陸ということもあって大きな話題となり、また着陸から約1ヵ月後には玉兎号に問題が発生したこともあり、その命運を巡って大きく注目を浴びていたが、すでにそれらは過去のこととなり、中国から嫦娥三号に関する情報はあまり出てこなくなった。
だが、9月5日からマカオで中国の月探査計画に関する展示会が開幕し、その前日の4日に行われた記者会見において、嫦娥三号の現状に関する公式の情報が久々に発表された。発表者は中国の月探査計画の総設計士を務めている、呉偉仁氏である。
呉氏によれば、両機は9月6日から10回目の月の昼を迎えたという。嫦娥三号の着陸機は今も順調に観測を続けており、同氏は「着陸機の健康状態は良好です」と語っている。
一方の玉兎号も、すでに走行はできない状態ではあるものの、搭載されているパノラマ・カメラ、地中探査用のレーダー、アルファ粒子X線分光計、そして赤外線分光計といった4基の観測機器は順調に動いており、探査活動を継続しているとのことだ。
また、宇宙空間を飛び交う電波を傍受している、英イングランドのアマチュア団体のUHF Satcomは、地球と着陸機、玉兎号との通信の傍受を行っており、両機が現在も生きており、運用も継続されていることが証明されている。
嫦娥三号は2013年12月2日、長征三号乙ロケットに載せられ、四川省にある西昌衛星発射センターから打ち上げられた。9日に月を周回する軌道に投入、そして14日に月の「雨の海」と呼ばれる地域に着陸した。
嫦娥一号、二号に続く、中国にとって3機目となる月探査機として送り込まれた嫦娥三号は、ソ連のルナ24以来37年ぶりに月に着陸した探査機となった。さらに月にローバーが送り込まれたこととなると、同じくソ連のルノホート2以来、実に40年ぶりとなる。
嫦娥三号は、着陸地点に留まって科学観測を行う着陸機(ランダー)と、その着陸機から発進し、月面を走り回って探査する探査車(ローバー)の「玉兎号」から構成されている。
着陸機は質量1,200kgほどで、月面をいくつかの波長で撮影できるカメラが搭載されており、月面天文台とも呼ばれる。
玉兎号は質量140kgほどの機体で、カメラによる光学観測や、レーダーを使った月の内部構造の調査、またアルファ粒子X線分光計や赤外線分光計を用いた土壌の調査などを実施。設計寿命は約3ヶ月、走行可能距離は3平方kmの想定で造られている。「玉兎」という名前は、中国に伝わる「月には不老不死になるための仙薬を作るウサギが棲んでいる」という伝承に由来する。日本では「お餅をつくウサギ」として親しまれているが、どちらもインドの『ジャータカ』という古い物語が発祥であるとされる。
玉兎号は着陸の約7時間後に着陸機から発進、走行や機器の試験を行い、本格的な探査活動に入った。また着陸機も観測を開始した。
12月26日には、月に夜が訪れるのに伴い、着陸機と玉兎号は共に休眠状態に入った。月はおおよそ2週間ごとに昼と夜が訪れ、昼の温度は120度、夜は-180度にもなる。そのため月面の探査機とってはこの夜を越える技術(越夜技術)が必要となる。玉兎号の場合、夜を越える際には太陽電池の一つを太陽が昇る方向へ向け、またもう一つの太陽電池は蓋のように折り畳まれ、内蔵しているヒーターで温め続けられる仕組みになっている。
約2週間後、月に再び昼が訪れたのに合わせ、着陸機と玉兎号は起床し、探査を再開した。しかし2度目の月の夜を迎える直前の1月25日、玉兎号の太陽電池パドルやマストを折り畳むための制御回路が故障、越夜に備えた体制になれないまま、月の夜を迎えることになる。その状態では夜を乗り切れる保証はない。一時、復帰は絶望的とさえ言われていたが、2月12日の午後に玉兎号は再び起床。故障を抱えたままではあったが、観測機器は動くため、探査は再開された。その後明らかにされたところによれば、故障の原因は、駆動部に月の塵が侵入したためであるとされる。
そして2月22日からは3度目の眠りに突入した。再び復帰が危ぶまれたが、3月14日に無事目覚め探査を再開した。
その後も今日に至るまで、引き続き運用が続けられている。
玉兎号の設計寿命は3ヶ月で造られており、玉兎号のミッションは、やや不完全ではあるものの、すでに成功したと言えよう。だが同時に、設計寿命を超えたということは、故障している制御回路以外にも、今後不具合が発生する可能性がある。運用を担当している関係者は、完全に通信ができなくなるまで運用を続けると表明している。
嫦娥三号の運用が続けられている一方で、中国は今年10月に、嫦娥五号の試験機を打ち上げる予定だ。嫦娥五号は、2017年の打ち上げを目指して開発が進めている探査機で、月に着陸して石や土を採取し、地球に持ち帰るサンプル・リターンを行うことを目指している。10月に打ち上げられる試験機は、嫦娥五号にとって必要となる、地球と月との往復航行と、第二宇宙速度で大気圏へ再突入し、地上に帰還するための技術を試験することを目的としている。
また、2010年に打ち上げられ、月を周回して探査を行った嫦娥二号は、探査終了後に月軌道を離れ、太陽と地球間のラグランジュ2点に移動し、宇宙を航行する技術と、150万km離れた探査機との通信技術を実証している。さらにその後、L2点を出発して小惑星トータティスに接近、探査を行うという芸当を見せつけた。
さらに2016年には、今回の嫦娥三号を改良した嫦娥四号を打ち上げ、再び着陸機とローバーによる月面探査に挑むとされる。また2017年の嫦娥五号の次にも、同型機の嫦娥六号を打ち上げる計画だ。
そしてその先には有人の月探査を行う計画も持っている。まだ実施するという正式な決定は下されていないとされるが、実現に必要な技術は、着々と獲得しつつある。
■“玉兔”迎来第十个月昼 四大科学载荷运行正常_要闻_新闻_中国政府网
http://www.gov.cn/xinwen/2014-09/05/content_2745753.htm