【▲ヨーロッパ南天天文台「超大型望遠鏡(VLT)」の観測装置「MUSE」によって撮影された銀河「NGC 7727」の中心部分。1600光年の距離を隔てて輝く2つの明るい銀河核にはそれぞれ超大質量ブラックホールが存在するとみられている(Credit: ESO/Voggel et al.)】

ストラスブール天文台の天文学者Karina Voggelさんを筆頭とする研究グループは、「みずがめ座」の方向およそ8900万光年先にある銀河「NGC 7727」超大質量ブラックホールのペアを発見したとする研究成果を発表しました。

ヨーロッパ南天天文台(ESO)によると、今回の発見は地球から既知の超大質量ブラックホールのペアまでの最短距離の記録を更新するとともに、天の川銀河近傍の宇宙には未発見の超大質量ブラックホールがまだ多く存在する可能性を示唆するものとなったようです。

■2つのブラックホールの質量は太陽の約1億5400万倍と約630万倍と推定

特異な形状を持つことが知られているNGC 7727は、約10億年前に2つの銀河が合体することで誕生した銀河(合体銀河)だと考えられています。研究グループによると、今回見つかった超大質量ブラックホール(質量が太陽の数十万倍以上もある比較的重いブラックホール)のペアは片方の質量が太陽の約1億5400万倍、もう片方が太陽の約630万倍とみられており、観測された2つのブラックホールの間隔は1600光年とされています。

天の川銀河の中心に存在が確実視されている超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」の質量は、太陽の約400万倍と推定されています。NGC 7727に存在するとみられる2つの超大質量ブラックホールの質量は、軽いほうでも「いて座A*」の1.5倍ほど、重いほうは40倍近い質量があることになります。

【▲超大質量ブラックホールのペアが見つかった銀河「NGC 7727」の全体像(Credit: ESO/VST ATLAS team. Acknowledgement: Durham University/CASU/WFAU)】

多くの巨大な銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在すると予想されていますが、銀河が合体するとその中心にあった超大質量ブラックホールどうしも接近し、やがて1つに合体してより巨大なブラックホールになると考えられています。研究に参加したクイーンズランド大学教授のHolger Baumgardtさんによると、今回見つかったNGC 7727の超大質量ブラックホールのペアも例外ではなく、その間隔と速度から今後2億5000万年以内に合体すると予想されています。

ESOによると、これまでに発見された超大質量ブラックホールのペアのうち、地球に最も近いのは約4億7000万光年先の銀河「NGC 6240」に存在するとみられるのものでした。いっぽう、地球からNGC 7727までの距離はその約5分の1となる約8900光年先であることから、今回の発見によって地球から既知の超大質量ブラックホールのペアまでの最短距離の記録が更新されたことになります。

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【▲口径8.2mの望遠鏡4基で構成されるヨーロッパ南天天文台の「超大型望遠鏡(VLT)」(Credit: ESO/H.H.Heyer)】

発表によると、2つの銀河が合体してできたとみられるNGC 7727には超大質量ブラックホールのペアが存在するのではないかとすでに予想されていたものの、活動的なブラックホールのように高エネルギーの電磁波を放出してはいなかったため、これまでその存在を確認することができなかったといいます。

そこで研究グループは、ESOのパラナル天文台(チリ)にある「超大型望遠鏡(VLT:Very Large Telescope)」に設置されている広視野面分光観測装置「MUSE(Multi Unit Spectroscopic Explorer)」を使い、NGC 7727の中心付近に存在する星々を観測しました。

ブラックホールそのものを電磁波で観測することはできませんが、ブラックホールの強い重力がもたらす影響を受けながら周回する恒星を観測することで間接的にブラックホールの存在を検出したり、質量を推定したりすることが可能です。VLTのMUSEに加えて「ハッブル」宇宙望遠鏡による観測データも用いた分析の結果、研究グループはNGC 7727の中心に超大質量ブラックホールのペアが存在することを確認し、その質量は前述のように「太陽の約1億5400万倍および約630万倍」であると導き出しました。

▲今回用いられた観測手法のイメージ(動画)▲
ブラックホールを周回する恒星のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)をもとに質量が推定された
(Credit: ESO/L. Calçada; VST ATLAS team; Voggel et al.)

Voggelさんは、未発見の巨大なブラックホールを隠し持つ合体銀河はもっと多く存在するかもしれないとした上で、今回の成果は近傍の宇宙における既知の超大質量ブラックホールの総数が30パーセント増える可能性を意味するものだと言及しています。

また、研究に参加したESOの天文学者Steffen Mieskeさんは、ESOがチリのセロ・アルマゾネス山で建設を進めている次世代の大型望遠鏡「欧州超大型望遠鏡(ELT:Extremely Large Telescope)」に触れて「今回の超大質量ブラックホール検出はほんの始まりに過ぎません」とコメントし、ELTによる超大質量ブラックホールの検出に期待を寄せています。

 

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Image Credit: ESO/Voggel et al.
Source: ESO
文/松村武宏