
米ライス大学は8月14日、およそ45億年前に誕生したばかりの木星のコアが巨大衝突によって破壊され、今もその状態が続いているとするShang-Fei Liu氏らの研究成果を発表しました。自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの堀安範氏も参加した研究内容は論文にまとめられ、同日付でNatureのオンライン版に掲載されています。

■木星のコアは密度が低かった
現在木星ではNASAの木星探査機「ジュノー」が周回探査を行っています。数多くのクローズアップ画像で私たちを驚かせてくれるジュノーですが、外からは見えない木星内部の構造を明らかにすることも重要な任務のひとつです。
ジュノーによる重力場の測定で、木星のコアは密度が低いことが明らかになりました。重元素(※)全体の質量は地球の質量の十倍から数十倍(木星の質量のおよそ5~15%)に達するものの、中心付近に集中して存在しているわけではなく、木星の直径の半分くらいの範囲に薄く広く分布しているようなのです。
従来の惑星形成に関する理論では、まず重元素でできた小さなコアが出来上がり、そのあとで水素をはじめとした軽いガスが急速に捕獲されて木星が誕生したとされています。ガスが集まる段階ではコアを構成するような重元素はほとんど捕獲されないとみられており、希釈されたような低密度のコアは予想外の発見でした。
(※:ここでは水素とヘリウム以外の元素を指します)

■初期の太陽系における巨大衝突シナリオ
Liu氏は木星のコアが低密度になった原因として、木星のコアがその周囲にある低密度の層と混ざりあってしまうほどの強い衝撃、つまり別の惑星との巨大衝突を経験したのではないかと予想しました。研究に参加したライス大学のAndrea Isella氏は、Liu氏の提案に当初は懐疑的だったといいます。
しかし、巨大衝突の発生する確率や衝突による影響をシミュレーションによって繰り返し検討した結果、研究チームはジュノーの観測結果と一致する以下のシナリオを導き出しました。
今からおよそ45億年前の初期の太陽系において、地球の10倍ほどの質量を持った原始惑星が、当時誕生したばかりの木星と真正面から衝突しました。原始惑星は木星の大気を弾丸のように突破し、双方のコアが砕け散ります。コアを構成していた重元素はコアを取り囲んでいた層と混ざり合い、現在観測されているような低密度のコアが誕生したというのです。
濃密な大気を持つ木星では天体衝突によるクレーターは見られませんが、その低密度のコアこそが、過去の木星で起きた巨大衝突を今に伝える痕跡だったというわけです。

■散らばったコアが落ち着くのはまだずっと先になりそう
研究チームのシミュレーションによれば、衝突が45億年前の出来事だったとしても、ただよう重元素が落ち着くにはさらに数十億年を要する可能性があるといいます。
数十億年後といえば、年老いた太陽が肥大化して赤色巨星となり、ガスを放出して白色矮星へと進化する頃です。木星が受けた誕生直後の内なる傷は、主星が死を迎える頃にようやく癒えるのかもしれません。
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Source: Rice
文/松村武宏