こちらは「おとめ座(乙女座)」の方向約5500万光年先の渦巻銀河「NGC 4303」です。18世紀にフランスの天文学者シャルル・メシエがまとめた「メシエカタログ」には「M61(Messier 61)」として登録されています。NGC 4303は「おとめ座銀河団」を構成する1000個以上の銀河のひとつであり、スターバースト銀河(爆発的な星形成活動が起きている銀河)としても知られています。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」と「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、NIRCamのデータ(青と緑で着色)は可視光線では青く見える若い高温の星が放射した赤外線を、MIRIのデータ(緑と赤で着色)は紫外線や可視光線を吸収した塵が再放射した赤外線を示しています。銀河円盤全体に広がる塵はまるで渦巻腕(渦状腕)を支える骨格のように複雑に分布しており、そのあちこちでは高温の星々が密集して星団を成しています。
次に掲載するのは「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の「広視野カメラ3(WFC3)」で観測されたNGC 4303です。先に掲載したウェッブ宇宙望遠鏡の画像と向きや大きさが一致するように調整されています。2つの画像を比較すると、ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた塵の分布が明るい部分は、ハッブル宇宙望遠鏡の画像に写る暗黒星雲の連なりに沿うようにして広がっていることがわかります。
ウェッブ宇宙望遠鏡によるNGC 4303の観測は、近傍宇宙の銀河を対象とした観測プロジェクト「PHANGS」(Physics at High Angular resolution in Nearby GalaxieS)の一環として実施されました。ハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」、同じくチリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」も参加するこのプロジェクトでは、銀河における星形成を理解するために様々な波長の電磁波を使った高解像度の観測が数年に渡って行われています。
プロジェクトに新たに加わったウェッブ宇宙望遠鏡は星形成のサイクルを物語る泡状やフィラメント(ひも)状の構造を過去最小のスケールで観測しており、同じ銀河を長年研究してきた研究者さえも驚かせているということです。冒頭の画像はPHANGSプロジェクトでウェッブ宇宙望遠鏡が観測した近傍の19銀河のひとつとして、STScIをはじめアメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)から2024年1月29日付で公開されています。
Source
- STScI - Webb and Hubble's Views of Spiral Galaxy NGC 4303
- STScI - NASA's Webb Depicts Staggering Structure in 19 Nearby Spiral Galaxies
- NASA - NASA’s Webb Depicts Staggering Structure in 19 Nearby Spiral Galaxies
- ESA - Webb reveals structure in 19 spiral galaxies
文/sorae編集部