火星には「フォボス」と「ダイモス」という2つの衛星があります。このうち内側を周回するフォボスは少しずつ火星に近づいていて、今後数千万年のうちに崩壊して環を形成すると予想されています。このような衛星の崩壊は過去にも繰り返されていて、フォボスはおよそ2億年前に当時存在していた火星の環から形成されたとする研究成果が発表されています。
■崩壊してできた環から新しい衛星が作られ、再び崩壊して環に……
フォボスとダイモスの起源については議論が続いており、火星で起きた巨大衝突の破片が集まってできたとする説と、別の場所で形成された小惑星が火星に捕獲されたとする説があります。Matija Ćuk氏(SETI研究所)らはこのうち巨大衝突説を前提に、2つの衛星の軌道がどのように変化していったのかを分析しました。
研究チームによるシミュレーションの結果、火星の赤道に対して2度近く傾いている外側の衛星ダイモスの軌道は、現在のフォボスよりも約20倍重い衛星が内側を周回していて、その衛星が外側に移動しつつダイモスと重力を介して相互作用したとすれば説明できることが示されたといいます。内側にあったとされる衛星が外側に向けて移動した原因は、火星を取り囲んでいた環との相互作用によるものとされています。
ただ、現在の火星にはそのような衛星も環もありません。研究チームでは、かつての火星にはフォボスよりもずっと重い衛星とダイモスの2つの衛星に加えて環が存在しており、内側の衛星が環との相互作用によって移動しつつダイモスとも相互作用した結果、ダイモスの軌道が現在のようになったと考えています。
やがて環が消えると内側の衛星は火星に近づくようになり、火星の潮汐力によって崩壊して環を形成したといいます。この環からは崩壊前よりも小さい新たな衛星が形成されたとみられますが、環が消えると新たに形成された衛星も火星に近づき、再び崩壊して環を形成。そこからさらに小さな衛星が形成されて……というサイクルが繰り返された結果、現在のフォボスが形成されたと研究チームは予測しています。
今回の結果はAndrew Hesselbrock氏とDavid Minton氏が2017年に発表した研究成果を支持するもので、研究チームの予測が正しかった場合、ダイモスは形成されてから35億~40億年が経っているいっぽうで、フォボスは2億年程度しか経っていないことになります。研究チームは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2024年に打ち上げる予定の「火星衛星探査計画(MMX)」の探査機によってフォボス表面のサンプルが地球に持ち帰られ、フォボスの起源についての知見が得られることに期待を寄せています。
Image Credit: Tushar Mittal using Celestia 2001-2010, Celestia Development Team
Source: SETI研究所
文/松村武宏