欧州宇宙機関(ESA)が今年2月に打ち上げた太陽探査機「ソーラー・オービター」は、現在水星と金星の公転軌道の間を飛行しています。ソーラー・オービターはその名の通り太陽の観測を目的に打ち上げられた探査機ですが、偶然にも「アトラス彗星(C/2019 Y4)」の尾を通過することが判明し、観測への準備が進められています。
■5月31日~6月1日にかけてイオンの尾を、6月6日には塵の尾を通過する見込み
昨年12月に発見されたアトラス彗星は今年の3月にかけて急速に明るさを増し、5月上旬から中旬にかけて北半球から1~3等の明るさで観測できるかもしれないと予測されていました。しかし4月に入るとアトラス彗星の崩壊が確認されており、核が複数に分裂した様子は「ハッブル」宇宙望遠鏡などによって撮影されています。
アトラス彗星は5月31日に太陽へと最接近しますが、ちょうどその頃にソーラー・オービターがアトラス彗星の尾を通過する可能性があることをGeraint Jones氏(マラード宇宙科学研究所)が5月上旬に報告しています。彗星にはイオンもしくは塵(ダスト)でできた2つの尾がありますが、ソーラー・オービターは5月31日から6月1日にかけてアトラス彗星のイオンの尾を、6月6日に塵の尾を通過するとみられています。
これを受けてESAは、ソーラー・オービターに搭載されている観測機器のうち「エネルギー粒子検出器(EPD)」「磁力計(MAG)」「電波・プラズマ波測定器(RPW)」「太陽風プラズマ分析器(SWA)」の4つによる尾の観測を試みる予定です。ESAは発表において、アトラス彗星のイオンの尾との相互作用による惑星間磁場の変動が磁力計によって検出される可能性があり、尾を構成する粒子は太陽風プラズマ分析器によって直接捉えられるとしています。
また、塵の尾を通過する際、ソーラー・オービターに秒速数十kmという高速で衝突した塵が蒸発してプラズマ化するとみられています。どれくらいの塵が衝突するのかは塵の密度に左右されるため予測困難としつつも、電波・プラズマ波測定器によって検出できる可能性に言及しています(ちなみに塵との衝突による探査機への重大な悪影響はないとされています)。
ESAによると、彗星の観測を主な目的としていない探査機が彗星の尾を通過した事例は過去に6回あったものの、いずれも観測データを分析する過程で通過したことが明らかになっており、今回のように通過することがあらかじめ予測されたケースは初めてのことだといいます。ESA科学ディレクターのGünther Hasinger氏は「今回のような予期せぬ出会いがもたらしてくれる機会や課題は素晴らしいものです!」とコメントしています。
Image Credit: ESA/ATG medialab
Source: ESA
文/松村武宏