「宇宙へモノを届ける」というのは、現在でも日常から遠い出来事であると感じるかもしれません。しかし現在では、比較的自由にモノを宇宙に送ることができます。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の「きぼう有償利用制度」は、まさにその例の1つです。
2025年10月26日から2026年6月17日(※1)にかけて、JAXAきぼう有償利用制度を利用した、「推し宙スペースライブ」を通じて、4人のVTuberのぬいぐるみと43人のVTuberなどが描かれたアクリルパネル3枚が、ISS(国際宇宙ステーション)の「きぼう」日本実験棟に滞在し、生中継で配信されるという出来事がありました。これは “推し活×宇宙” というテーマで行われたイベントであり、推し宙プロジェクトによると、VTuberのグッズ類が宇宙(※2)に到達したのは世界初のことです。

これらの実際に宇宙に行ったグッズ類は既に地球に帰還しており、2026年9月下旬に、今回のプロジェクトのコマンダーを務めた宇推くりあ氏や推し宙プロジェクトのメンバーが受け取っています。今回帰還したグッズ類は、ぬいぐるみとアクリルパネルが11月6日~8日に相模原市立博物館(神奈川県相模原市)で、ぬいぐるみのみが11月28日に筑波宇宙センター(茨城県つくば市)の特別公開で、それぞれ展示される予定です。

※1…本記事の日時はいずれも日本時間。
※2…本記事では海抜高度100km以上の空間のことを指します。高度約80kmなどの異なる定義もありますが、どの定義でも世界初という点は変わりません。
VTuberグッズの輸送に使われた「きぼう有償利用制度」とは
1957年に世界初の人工衛星が軌道に打ちあがって以来、人類は数多くのモノを宇宙へと打ち上げていきました。それから約70年、宇宙への到達は国家の威信をかけたプロジェクトから民間企業が参入する形へとシフトしていきましたが、まだ多くの人にとって宇宙に到達することは非日常的な出来事であるように感じるかと思います。
しかし、自力ではロケットを打ち上げなくても、自分が希望するモノを宇宙に打ち上げる制度があります。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の「きぼう有償利用制度」は、まさにその例の1つです。これはISS(国際宇宙ステーション)の中にあるJAXAの「きぼう」日本実験棟を利用できる制度であり、利用者の目的に応じた、様々なミッションを実施できる仕組みとなっています。
きぼう有償利用制度は、主に、微小重力環境を活用した、地上ではできない実験を行うことを希望する企業や研究機関が利用します。しかし、いわゆる “無重力状態” という非日常的な演出ができるという意味で、企業などのマスコットキャラクターをかたどったぬいぐるみなどが宇宙に行った例もあります。
株式会社sorae、Chart株式会社、ふわころもち合同会社が合同で行った「推し宙スペースライブ」は、その最新の例の1つです。これは “推し活×宇宙” をテーマとし、昨今流行しているVTuber(バーチャルYouTuber)のファン活動のベクトルを宇宙に向けるというものです。このプロジェクトは、主に2つの点に特徴があります。
1つ目は宇宙へと打ち上げられた搭載物です。このプロジェクトでは、4人のVTuberのぬいぐるみと43人のVTuberなどが描かれたアクリルパネル3枚が宇宙へと行きました。VTuberをかたどったぬいぐるみやアクリルパネルを高所に打ち上げること自体には前例がありますが、これらはどれも成層圏へと到達する気球に限られています。VTuberをかたどったものが、国際的に宇宙と見なされる領域に到達したのは今回が初めてです。
また、これを輸送する方法にもユニークさがあります。今回の打ち上げでは、新型宇宙ステーション補給機1号機「HTV-X1」が使用されました。同じような補給機ではHTV(愛称「こうのとり」)が知られていますが、HTV-Xシリーズはこの後継機に当たり、搭載できる貨物の重量は5.85トンと、HTVより約45%増加しています。注目される新型の初号機に、新興のカルチャーに関わる搭載物があることは、どこか注目する部分があると言えるかもしれません。


世界初のVTuberグッズの宇宙到達
HTV-X1号機は、H3ロケット7号機にて2025年10月26日に打ち上げられました。10月29日から30日にかけて、まずはロボットアームで捕捉され、その後にISSへとドッキングしています。
搭載物の1つである、推し宙スペースライブ関連のグッズ類を利用したメインイベントは、2026年4月17日に行われた生中継です。搭載物であるVTuberのぬいぐるみとアクリルパネルが「きぼう」日本実験棟の内部で、無重量状態で浮揚している様子が生中継されました。また、プロジェクトに参加しているVTuberが、その様子をYouTube上にて配信しました。




これらのグッズ類は、この中継イベントの前後も含めて宇宙にありましたが、この記事の公開時点で地球へと帰還しています。帰還に使われたのは、スペースXの「ドラゴン補給船運用34号機」です。これは2026年5月16日にファルコン9ロケットによって打ち上げられ、同年5月17日にISSにドッキング、同年6月17日に地球に帰還しています。全体として、VTuberのグッズ類が宇宙にいた期間は235日に達し、ISSへのドッキングから離脱までの期間だけで考えても、地球の周りを約3550回周回したことになります。
なお、この帰還日は、ESA(欧州宇宙機関)がPokémon Company Internationalと企画した、ポケットモンスターの「ピカチュウ」のぬいぐるみが帰還したのと同一であり、同じドラゴン補給船で地球に帰還したことが強く推察されます。

今回のような、きぼう有償利用制度を利用したVTuberやキャラクターのグッズ類を宇宙に打ち上げるイベントは、今後も行われる可能性があります。ただし、ISSは2030年代での退役が予定されているため、いずれにしてもこの制度はいつか終わりを迎えます。このため、今後似たようなイベントがある場合、それはISS以外で行われるかもしれません。
そしてVTuber自体が、ここ数年で急速に一般化しつつある文化です。かつてはVTuberになるためのハードル自体が高く、タレント性も際立つ存在でした。しかし、徐々にではあるものの、自身の専門性を売りにする人物が頭角を現すようになり、何より人数そのものが爆発的に増えています。かつては一握りの利用者で成り立っていたSNSが、現在では個人の発信の場として定着していますが、同じようなことがVTuberでも起きつつあると言えます。
今回の推し宙スペースライブも、タレント性と専門性が半々くらいのイベントであったというのが、参加者の1人でもある筆者の所感です。そして今後は、専門性の強さに比重が偏ったVTuberのイベントが、宇宙関連事業とコラボすることもますます増えていくのではないかと予想されます。
ひとことコメント
私のグッズも参加しました! 自分の事で「世界初」と書ける嬉しさと、「世界初」と書く責任の重さを感じますのよ。(筆者)
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文/彩恵りり 編集/sorae編集部










