重力レンズで歪んだ銀河の像に超新星が出現 ウェッブ宇宙望遠鏡で観測
【▲ 左:ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測した銀河団「MACS J0138.0-2155」。右:重力レンズ効果を受けた銀河「MRG-M0138」の像の1つを拡大したもの、2つの丸印は超新星の像が見えている位置を示している(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Justin Pierel (STScI), Drew Newman (CIS))】

こちら画像、左は「くじら座」の方向約40億光年先の銀河団「MACS J0138.0-2155」、右はその銀河団による重力レンズ効果を受けて像が歪み分裂して見えている約100億光年先の銀河「MRG-M0138」の像の一つを拡大したものです。

【▲ 左:ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測した銀河団「MACS J0138.0-2155」。右:重力レンズ効果を受けた銀河「MRG-M0138」の像の1つを拡大したもの、2つの丸印は超新星の像が見えている位置を示している(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Justin Pierel (STScI), Drew Newman (CIS))】
【▲ 左:ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測した銀河団「MACS J0138.0-2155」。右:重力レンズ効果を受けた銀河「MRG-M0138」の像の1つを拡大したもの、2つの丸印は超新星の像が見えている位置を示している(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Justin Pierel (STScI), Drew Newman (CIS))】

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で2023年12月5日に取得した観測データをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。

重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像が歪んだり拡大して見えたりする現象です。何百億~何千億もの星々の集まりである銀河が何百~何千と集まった銀河団の質量は途方もなく大きいため、地球から見てたまたま銀河団の向こう側に位置する遠方銀河の像はこのように強く歪むことがあります。ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、MRG-M0138の場合は像が5つに分裂もしています。

注目は拡大像の丸印で示されたところにある2つの小さな光点です。STScIによれば、これはMRG-M0138で発生した超新星爆発の像であり、重力レンズによって2つに分裂して見えているのだといいます。STScIのJustin Pierelさんを筆頭とする研究チームによると、この超新星は白色矮星が関わる「Ia型超新星」であることが確認されています。研究チームは2023年11月17日にウェッブ宇宙望遠鏡で取得されたMRG-M0138の観測データからこの超新星を偶然発見し、「アンコール(Encore)」と名付けました。

実は、MRG-M0138で超新星が見つかったのは今回が初めてではありません。2019年には別の研究チームが、2016年に「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」で取得されたMRG-M0138の観測データから像が3つに分裂した超新星を発見しています。ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた超新星もまたIa型超新星だったとみられており、「レクイエム(Requiem)」と名付けられました。今回ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で見つかったのは同じ銀河でわずか7年後に観測された超新星だったことから「アンコール」というわけです。

次の画像はハッブル宇宙望遠鏡で2016年に観測したMRG-M0138(左)と、ウェッブ宇宙望遠鏡で2023年12月に観測したMRG-M0138(右)を比較したものです。超新星の像の位置は丸印で示されています。

【▲ 左:ハッブル宇宙望遠鏡で2016年に観測したMRG-M0138。右:ウェッブ宇宙望遠鏡で2023年に観測したMRG-M0138。丸印は超新星の像が見えている位置を示している(Credit: Hubble image: NASA, ESA, STScI, Steve A. Rodney (University of South Carolina) and Gabriel Brammer (Cosmic Dawn Center/Niels Bohr Institute/University of Copenhagen); JWST image: NASA, ESA, CSA, STScI, Justin Pierel (STScI) and Andrew Newman (Carnegie Institution for Science))】
【▲ 左:ハッブル宇宙望遠鏡で2016年に観測したMRG-M0138。右:ウェッブ宇宙望遠鏡で2023年に観測したMRG-M0138。丸印は超新星の像が見えている位置を示している(Credit: Hubble image: NASA, ESA, STScI, Steve A. Rodney (University of South Carolina) and Gabriel Brammer (Cosmic Dawn Center/Niels Bohr Institute/University of Copenhagen); JWST image: NASA, ESA, CSA, STScI, Justin Pierel (STScI) and Andrew Newman (Carnegie Institution for Science))】

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真の明るさが判明している天体や現象は、実際に観測された見かけの明るさと比較することで地球からの距離を求めることができます。このような天体や現象は「標準光源」と呼ばれています。Ia型超新星も真の明るさが一定だと考えられているため、標準光源の一つとして重要視されています。

超新星はもともと明るい現象ですが、MRG-M0138で発生した「レクイエム」や「アンコール」のように重力レンズ効果を受けている場合、より遠方で起きた場合でも観測することが可能になります。宇宙の加速膨張の原因と考えられている暗黒エネルギー(ダークエネルギー)や、銀河の質量の大半を占めているとされる暗黒物質(ダークマター)の性質に迫る機会も得られることから、特に遠方の宇宙で起きたIa型超新星は研究者から注目されています。

Pierelさんによると、「レクイエム」は観測から発見までに時間が経っていたので宇宙の膨張に関する十分なデータを得ることができなかったものの、2030年代半ばに4つ目の像が出現すると予測されています。同じタイミングで放射された超新星の光が重力レンズ効果を受けて進行方向を変化させられると、地球へ届くまでの間に伝わる距離も変化し、長い距離を伝わるようになった光ほど地球に遅れて届くようになるからです。

超新星は通常であればどこで発生するのかわからない現象ですが、「レクイエム」と「アンコール」は遅れて出現する像の発生場所と時期を予測できるという幸運に恵まれました。2035年頃に出現するであろう最後の像を観測することで、宇宙の現在の膨張率を示すハッブル定数の正確な値が新たに算出されるだろうとPierelさんは期待を寄せています。

ウェッブ宇宙望遠鏡で観測したMRG-M0138の画像はSTScIから2023年12月21日付で公開されています。なお、本記事の執筆時に参照したのはSTScIが紹介した進行中の研究内容であり、まだ査読プロセスを経ていない点をご留意下さい。

 

Source

  • STScI - NASA’s Webb Spots a Second Lensed Supernova in a Distant Galaxy

文/sorae編集部