渦巻銀河「M77」(左)と、赤外線の波長で観測されたM77の活動銀河核(右)(Credit: ESO/Jaffe, Gámez-Rosas et al.)

【▲ 渦巻銀河「M77」(左)と、赤外線の波長で観測されたM77の活動銀河核(右)(Credit: ESO/Jaffe, Gámez-Rosas et al.)】

こちらの画像、左側に写っているのは「くじら座」の方向およそ4700万光年先にある渦巻銀河「M77」(Messier 77、NGC 1068)の姿です。チリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」を使って撮影されました。M77はセイファート2型という活動銀河の一種に分類されていて、その中心には狭い領域から強い電磁波を放射する「活動銀河核(AGN)」が存在しています。

活動銀河核の原動力は超大質量ブラックホールだと考えられています。ブラックホールに引き寄せられたガスや塵などの物質は薄い降着円盤を形成し、らせん状にブラックホールへ落下していきます。この過程で重力エネルギーが解放されることで、降着円盤からは様々な波長の電磁波が放射されると考えられています。M77の中心にあるブラックホールの質量は、太陽の約1000万倍に達すると予想されています。

画像の右側は、赤外線の波長で捉えられたM77の活動銀河核の様子(疑似カラー)です。赤外線はブラックホール自身や降着円盤から放出されているのではなく、ブラックホールを広く取り囲む塵から放出されたものです。ライデン大学(オランダ)のVioleta Gámez Rosasさんを筆頭とする研究グループは、M77の活動銀河核を観測した結果、約30年前に提唱された「活動銀河核の統一モデル」を裏付ける重要な証拠が得られたとする研究成果を発表しました。

■提唱されていた活動銀河核の基本構造を裏付ける証拠を発見

前述のように、活動銀河核は強い電磁波を放射していますが、観測結果によって幾つかの種類に分かれることが知られています。ESOによると、活動銀河核には電波のバーストを放出するもの・しないもの可視光線で明るく輝くもの・比較的穏やかに輝くものがあるといいます。M77の活動銀河核は、このうち可視光線で穏やかに輝くタイプとされています。

M77の活動銀河核を描いた想像図。薄い降着円盤を持つ超大質量ブラックホールは、ガスと塵でできた厚いトーラスに隠されているとみられる(Credit: ESO/M. Kornmesser and L. Calçada)

【▲ M77の活動銀河核を描いた想像図。薄い降着円盤を持つ超大質量ブラックホールは、ガスと塵でできた厚いトーラスに隠されているとみられる(Credit: ESO/M. Kornmesser and L. Calçada)】

活動銀河核の統一モデルは、このように異なる性質を持つ活動銀河核を統一的に説明できる理論として1990年代に提唱されました。

統一モデルでは、どの活動銀河核も「塵を含むトーラス(ドーナツ形をした厚いリング状の構造)に取り囲まれた超大質量ブラックホール」という共通の基本構造を持つと想定。活動銀河核で観測される電波バーストの有無や、可視光線での明るさの違いは、地球から見たトーラスの角度が異なるために生じると考えられています。

【▲トーラスに対する観測者の視点(△印)と活動銀河核の種類(右側)の関係を示した動画(英語)】
M77(セイファート2型)は活動銀河核のトーラスを真横から見たものだと考えられている
(Credit: ESO/L. Calçada and M. Kornmesser)

「ブラックホールをトーラスが取り囲む」という共通構造を持つ活動銀河核を地球から観測する場合、地球に対してトーラスが真上や真下を向けている(言い換えれば「ドーナツの穴」が見える)こともあれば、真横を向けている(「ドーナツの穴」が見えない)こともあるはずです。

トーラスが真上や真下を向けている場合はその中心(「ドーナツの穴」の中)を見通せるので、降着円盤やその周辺からの電磁波が地球に届きやすくなります。いっぽうトーラスが真横を向けている場合は、トーラスの中心を見通すことができません。

このように、観測されている活動銀河核の種類の違いは、地球から見たトーラスの角度の違いによって生じているとするのが、活動銀河核統一モデルの考え方です。

VLTIのMATISSEで観測されたM77の活動銀河核。中央の点は超大質量ブラックホールの推定位置。破線は内側にある厚い塵のリング構造、実線はその外側に広がるリング構造の範囲を示す(Credit: ESO/Jaffe, Gámez-Rosas et al.)

【▲ VLTIのMATISSEで観測されたM77の活動銀河核。中央の点は超大質量ブラックホールの推定位置。破線は内側にある厚い塵のリング構造、実線はその外側に広がるリング構造の範囲を示す(Credit: ESO/Jaffe, Gámez-Rosas et al.)】

研究グループは今回、VLTを構成する口径8.2mの望遠鏡4基を連動させた「VLT干渉計(VLTI)」の赤外線分光観測装置「MATISSE」を使って、M77の活動銀河核を詳細に観測しました。「アルマ望遠鏡(ALMA)」などの観測データもあわせて分析した結果、統一モデルで予想されていたように、超大質量ブラックホールがガスと塵でできたリング状の構造に隠されている証拠を見出したといいます。

Gámez Rosasさんは今回の成果について「活動銀河核内部の仕組みをより良く理解することにつながるはずです」とコメント。また、過去に超大質量ブラックホールが活動していた可能性がある天の川銀河の歴史を理解する上でも助けになると期待を述べています。研究グループは活動銀河核統一モデルの裏付けとなる証拠をさらに多く得るために、より多くの銀河をVLTIで観測することを計画しています。

 

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文/松村武宏