太陽系に最も近い恒星の系外惑星を探すプロジェクト「TOLIMAN」発表
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したケンタウルス座アルファ星A(左)と同B(右)(Credit: ESA/Hubble & NASA)
【▲ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したケンタウルス座アルファ星A(左)と同B(右)(Credit: ESA/Hubble & NASA)】

地球外知的生命体探査(SETI)など複数のプロジェクトを手がける「ブレイクスルー・イニシアチブ」は、太陽系外惑星を探査する新たなプロジェクト「TOLIMAN」(※)を発表しました。TOLIMANは太陽に最も近い恒星である「ケンタウルス座アルファ星」(アルファ・ケンタウリ)を主なターゲットとしており、ハビタブルゾーン(ゴルディロックスゾーン)を公転する系外惑星の発見を目指しています。

※…Telescope for Orbit Locus Interferometric Monitoring of our Astronomical Neighbourhoodの略

■太陽の“隣人”ケンタウルス座アルファ星を公転する系外惑星の発見を目指す

ケンタウルス座アルファ星A・同B(Aplha Centauri AB、左上)とプロキシマ・ケンタウリ(Proxima Centauri、右下の円内)周辺の様子。A星とB星は単一の星のように見えている(Credit: Digitized Sky Survey 2, Acknowledgement: Davide De Martin/Mahdi Zamani)
【▲ケンタウルス座アルファ星A・同B(Aplha Centauri AB、左上)とプロキシマ・ケンタウリ(Proxima Centauri、右下の円内)周辺の様子。A星とB星は単一の星のように見えている(Credit: Digitized Sky Survey 2, Acknowledgement: Davide De Martin/Mahdi Zamani)】

約4.3光年先にあるケンタウルス座アルファ星は、太陽に似た恒星「ケンタウルス座アルファ星A」「ケンタウルス座アルファ星B」、それに赤色矮星の「プロキシマ・ケンタウリ(ケンタウルス座アルファ星C)」からなる三重連星です。

ケンタウルス座アルファ星Aと同Bは比較的距離が近く、互いの共通重心を約80年周期で公転していますが、プロキシマ・ケンタウリは2つの星から遠く離れた軌道を約55万年周期で公転しているとされています。このうち、プロキシマ・ケンタウリでは2016年にハビタブルゾーンを公転しているとみられる系外惑星「プロキシマ・ケンタウリb」が発見されています。

系外惑星「プロキシマ・ケンタウリb」を描いた想像図(Credit: ESO)
【▲系外惑星「プロキシマ・ケンタウリb」を描いた想像図(Credit: ESO)】

いっぽう、過去に発見が報告されたことはあるものの、ケンタウルス座アルファ星Aや同Bで存在が確認された系外惑星はまだありません。プロジェクトリーダーを務めるシドニー大学・シドニー天文学研究所の教授Peter Tuthillさんは「天文学者は銀河の広大な範囲に存在する何千もの系外惑星を見つけ出せる驚くべき技術を利用できるようになりましたが、天空における自分たちの“裏庭”についてはほとんど何も知りません」と語ります。

現代の社会にたとえて「ソーシャルメディアを介したグローバルな繋がりを持つものの、同じ地区に住んでいる人のことは誰も知らないようなものです」と表現するTuthillさんは、大気や表面、場合によっては生物圏の痕跡を発見・分析するのに最も有望な探査対象となることから、太陽の“隣人”に系外惑星が存在するかどうかを知るのは重要なことだと指摘します。

計画されているTOLIMANの外観を示した図(Credit: Breakthrough Initiatives)
【▲計画されているTOLIMANの外観を示した図(Credit: Breakthrough Initiatives)】

発表によると、TOLIMANでは太陽に近い恒星、特にケンタウルス座アルファ星をターゲットとした系外惑星の探査を行うために、小型の宇宙望遠鏡が打ち上げられる予定です。シドニー大学の研究者とブレイクスルー・イニシアチブ、セイバー・アストロノーティクス、アメリカ航空宇宙局ジェット推進研究所(NASA/JPL)が提携する同プロジェクトは2021年4月にスタート。プロジェクトの名称はアラビア語に由来するケンタウルス座アルファ星の古くからの名前「トリマン」(現在はケンタウルス座アルファ星Bの固有名)から名付けられました。

宇宙望遠鏡としてのTOLIMANは、恒星の位置を精密に測定する位置天文観測に特化しています。惑星とその主星(恒星など)は共通の重心を公転するため、惑星の公転にともなって主星も円を描くようにふらつきます。TOLIMANはこのふらつきを恒星の位置のわずかな変化として捉えることで、間接的に系外惑星の検出を目指しています。天体の像をシャープに結ぶ一般的な望遠鏡とは異なり、TOLIMANでは恒星の動きを検出しやすくするために、特殊な鏡(diffractive pupil lense)で複雑なパターンに広げられた恒星の像を得るように作られているといいます。

TOLIMANが観測したケンタウルス座アルファ星をシミュレーションで再現した画像(Credit: Breakthrough Initiatives)
【▲TOLIMANが観測したケンタウルス座アルファ星をシミュレーションで再現した画像(Credit: Breakthrough Initiatives)】

ブレイクスルー・イニシアチブが進めるプロジェクトの一つ、地球から20光年以内に存在する地球サイズの岩石惑星発見を目指す「ブレイクスルー・ウォッチ」でチーフエンジニアを務めるPete Kluparさんは「近隣に数十の恒星が存在することを考慮すれば、恒星から適度な距離を公転していて表面に液体の水を保持できる地球のような岩石惑星が、ほんの少数でも存在すると期待できます」と語ります。

なお、ブレイクスルー・イニシアチブでは、ケンタウルス座アルファ星に向けて超小型の無人探査機を送り出すプロジェクト「ブレイクスルー・スターショット」も進めています。もしもTOLIMANの観測でケンタウルス座アルファ星に系外惑星が検出されれば、ブレイクスルー・スターショットの探査機による将来の探査ミッションにつながる発見となるかもしれません。

レーザー推進で飛行する探査機を描いたイメージ図(Credit: Breakthrough Initiatives)
【▲レーザー推進で飛行する探査機を描いたイメージ図(Credit: Breakthrough Initiatives)】

 

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Image Credit: Breakthrough Initiatives
Source: ブレイクスルー・イニシアチブ / シドニー大学
文/松村武宏