誰も見たことがないはるか遠くの天体や、無人探査機さえも訪れたことがない場所、そこで待ち受ける謎に挑む知恵を凝らしたミッションの数々……。NASAは「NIAC(NASA Innovative Advanced Concepts)」というプログラムにおいて、その名の通り革新的かつ先進的なコンセプトに対し、実現の可能性を探るために研究資金を提供しています。

■太陽の重力を使って系外惑星を高解像度撮影

太陽の重力レンズ効果を利用して撮影された系外惑星のイメージ図。遠く離れた系外惑星を高い解像度で観測できるとされる(Credit: Slava Turyshev)

NIACの対象は毎年選ばれていて、今年2020年には全部で23の研究が採択されました。このうち5つはNASAのジェット推進研究所(JPL)に所属する研究者が取り組んでいるもので、JPLではSlava Turyshev氏の研究内容をピックアップして紹介しています。

Turyshev氏が実現の可能性を探っているのは、太陽系外惑星の高解像度撮影です。地上や宇宙の望遠鏡によって直接撮影された系外惑星は幾つかありますが、近いものでも数光年離れている系外惑星は、現時点では点状に捉えるのが精一杯です。そこでTuryshev氏は、系外惑星を観測するために太陽の重力による重力レンズ効果を用いた宇宙望遠鏡を検討しています。

Turyshev氏によると、重力レンズによる観測に適した太陽から547.6天文単位以上離れたところにソーラーセイルを備えた複数の小型宇宙望遠鏡を送り込むことで、100光年近く離れたところにある系外惑星の表面を25kmの解像度で撮影できるといいます。公開されている観測結果のイメージ図では、海や陸地、雲や植生などが存在する地球に似た系外惑星の姿が描かれており、実現すれば系外惑星の研究に大きな影響を与えることが予想されます。

NIACプログラムを統括するJason Derleth氏は、かつてアポロ計画において月の周辺から撮影された地球の写真にも匹敵する解像度で系外惑星を撮影できる可能性に「興奮している」とコメントを寄せています。

■エンケラドゥスの氷の割れ目に探査機を送り込む

また、今年NIACに採択された研究のなかには、小野雅裕氏(JPL)が手掛ける「Enceladus Vent Explorer(EVE)」があります。EVEでは土星の衛星エンケラドゥスで水を噴き出している氷の地殻の割れ目に無人探査機を送り込み、エンケラドゥスに生命が存在しているかどうかを調べることが目的とされています。

EVEの探査機は「Surface Module(地表モジュール)」と「Descent Module(降下モジュール)」で構成されます。1機または複数機の降下モジュールを搭載した地表モジュールは割れ目から数百メートルの地点に着陸。その後に降下モジュールが発進して割れ目の中へと降りていき、内部の観測やサンプルの採取・分析を実施します。もしも生命の存在を示す結果が得られた場合には、発見した生命体や生態系の特徴についても分析が試みられることになります。

この2つの研究のほかにも、月の裏側のクレーター内に建設する電波望遠鏡(Nan Yu氏)、微生物を利用した火星での燃料製造(Caroline Genzale氏)、火星有人探査ミッションをわずか2か月間で実施することも可能という推進システム(Steven Howe氏)など、ワクワクするコンセプトが採択されています。

これらは正式なミッションとしてすぐに実現されるものではありませんが、NIACの支援により研究が進むことで、NASAが実施する将来のミッションに結実する可能性があります。今から何十年か先には、今年採択されたコンセプトのどれかが実現する日がやってくるかもしれません。

 

Image Credit: Slava Turyshev
Source: NASA/JPL / NIAC 2020 Selections
文/松村武宏

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