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ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのVanessa Helmbrecht氏を筆頭とする研究チームは、土星の衛星Enceladus(エンケラドゥス)で存在が予想される液体の水の海(内部海)の海底を模した環境で実験を行ったところ、地球の微生物の一種が既知の限界を超える強いアルカリ性の環境で増殖したとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Science Advances」に掲載されています。

土星探査機カッシーニ(Cassini)が撮影した土星の衛星エンケラドゥス(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
【▲ 土星探査機カッシーニ(Cassini)が撮影した土星の衛星エンケラドゥス(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】

炭素はあっても二酸化炭素が乏しい環境?

エンケラドゥスは、南極付近からプルーム(水蒸気や氷の粒の噴出)が噴き出していることが知られている衛星です。厚い氷殻の下にはプルームの源となる内部海を持つと考えられており、生命が誕生している可能性もあるとして近年注目が高まっています。

NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA(ヨーロッパ宇宙機関)の土星探査機「Cassini(カッシーニ)」の観測では、プルームから水素やメタンが見つかりました。メタンは生命が関与しない環境にも存在しますが、地球にはメタンを生成する微生物が生息していることから、研究者はその起源を探求しています。

研究チームによると、エンケラドゥスの内部海は炭酸塩を多く含むアルカリ性とみられ、pHは8~11.6と推定されています。論文によれば、二酸化炭素に含まれる炭素を利用してメタンを作る地球の微生物は、一般に中性付近からやや酸性の環境に適応しています。水に溶けた炭素はpHが低いほど二酸化炭素として存在する割合が高くなるからです。

ところが、pHが9を超えると炭素の大部分は炭酸水素イオンや炭酸イオンの形をとり、二酸化炭素は極めて乏しくなります。そのため、こうした微生物がエンケラドゥスの内部海で想定される環境で増殖できるかどうかはわかっていませんでした。

沖縄の深海で見つかった微生物で検証

今回、研究チームは沖縄トラフの深海熱水噴出孔で見つかったアーキア(古細菌)の一種「Methanothermococcus okinawensis」を使って実験を行いました。この微生物は水素と二酸化炭素からメタンを作ってエネルギーを得る微生物で、増殖できるpHの上限は8.5とされていました。

研究チームによると、エンケラドゥスの岩石の核(コア)を模した粉末に、炭素を豊富に含むアルカリ性の水と塩化鉄(II)を加えて酸素のない環境に置いたところ、鉄が関わる鉱物と水の反応で水素が発生しました。すると、この微生物は通常の培養液における上限を上回るpH11でも増殖し、メタンを作り出したといいます。

分析の結果、微生物の増殖時には二酸化炭素を取り込む代謝経路(還元的アセチルCoA経路)の遺伝子が活発に働き、わずかな二酸化炭素を効率よく集めていたといいます。模擬環境の水に溶けた炭素は通常の培養液と比べて10倍に上り、増殖を支えた主な要因とみられています。

将来のエンケラドゥス探査ミッションに期待

論文の共著者であるルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのWilliam Orsi氏は、「私たちの研究は、エンケラドゥスに生命が存在することを証明するものではありません。しかし、その環境が持つ重要な地球化学的特徴が、生命の最も古い代謝のひとつを支え得ることを示しています。これは、衛星の海に由来するプルームから試料を採取する将来のミッションの科学的根拠を強めるものです」と述べています。

なお、ESAでは現在、エンケラドゥスに周回機と着陸機を送り込む探査ミッションの検討が進められています。今回の成果は「エンケラドゥスに生命は存在するのか」という問いに迫るミッションの意義を高めるものと言えそうです。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典