
バスク大学のAgustín Sánchez-Lavega氏を筆頭とする研究チームは、土星の南極をぐるりと取り囲むように、10個の頂点を持つ多角形状の大気の波が存在していることが明らかになったとする研究成果を発表しました。
このパターンは、研究チームから十角形を意味する「Decagon(デカゴン)」と呼ばれています。NASA(アメリカ航空宇宙局)やESA(ヨーロッパ宇宙機関)によると、土星では40年以上前から北極を取り囲む六角形のパターンが知られていますが、土星の南半球でこれほど規則正しい多角形状のパターンが確認されたのは今回が初めてです。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Science Advances」に掲載されています。

発見のきっかけは地上からの観測
土星の北極に六角形のパターンがあるのなら、対を成す構造が南極にもあるはずだ。そう考えたSánchez-Lavega氏は、1990年に打ち上げられたハッブル(Hubble)宇宙望遠鏡や、2004年から2017年まで周回観測を行った土星探査機「Cassini(カッシーニ)」が撮影した画像から探し続けてきたものの、長期間持続するパターンの兆候はみられなかったといいます。
やがて土星の季節が進み、地球から南極が見えるようになってきたことで転機が訪れました。2024年、Sánchez-Lavega氏とアマチュア天文家のTrevor Barry氏およびJean-Paul Oger氏は、バスク大学が運営する市民科学サイト「PVOL(Planetary Virtual Observatory and Laboratory)」に寄せられた地上で観測した土星の画像から、土星の南極付近にうっすらとした帯状のパターンが存在することを発見したのです。
その後、このパターンは2025年の観測でさらにはっきりとしてきただけでなく、ハッブル宇宙望遠鏡の画像にはすでに2023年の時点で捉えられていたことも明らかになりました。
ジェット気流に浮かぶ十角形のパターン
研究チームによると、十角形のパターン「デカゴン」は土星の南緯63度付近のジェット気流に沿って形成されており、頂点間の長さは平均約1万6800kmに達します。高度の分布は広く、気圧で表せば少なくとも10ミリバール~2バールの範囲にわたって存在することもわかりました。
興味深いのは移動速度です。デカゴンはジェット気流とともに東へ移動していますが、ジェット気流が秒速約116mで吹いているのに対し、デカゴンを形成している波そのものは秒速約2.5mで動いています。ジェット気流を基準にすると、デカゴンは秒速約113mも西へ遅れているような状態です。また、デカゴンを形成する10個の頂点は、平均約32.5日の周期で経度(東西)方向へわずかに揺れ動いていることも判明しています。

研究チームは、土星の南緯55度付近に存在する高気圧の渦(アンチサイクロン)とデカゴンの関係に注目しています。大気をごく薄い流体の層に見立てて数値的に動きを再現する「浅水モデル」を用いてシミュレーションを行ったところ、この渦の形成がデカゴンの成因になった可能性が否定できない結果が得られたといいます。
デカゴンは安定する? それとも消えてしまう?
40年以上も存在し続けてきた北極の六角形に対して、南極のデカゴンは2023年以降、徐々にはっきりとしてきたパターンです。研究に参加したNASAゴダード宇宙飛行センターのAmy Simon氏は、どうして今になってデカゴンが現れたのか、その理由はまだわからないと述べています。
論文では、仮にデカゴンがジェット気流の不安定性から生じたものだとすれば、北極の六角形のように長期間安定した構造ではなく、変化し続ける一過性の現象である可能性もあると指摘されています。研究チームは今後も土星の観測を継続し、デカゴンが一過性の存在なのか、それとも安定して存在し続けるのかを見極めたいとしています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
関連記事
参考文献・出典
- NASA - NASA's Hubble Tracks New Decagon Encircling Saturn’s South Pole
- ESA/Hubble - Hubble tracks new decagon encircling Saturn’s south pole
- Sánchez-Lavega et al. - A decagon wave around Saturn’s south pole (Science Advances)
























