現在の地球が保持する大量の水は、どこから来たのでしょうか? 地球に水をもたらした供給源のうち、大きな割合を占めると推定されているのが、水や有機物に富む炭素質小惑星です。ただし、水供給に炭素質小惑星が関与した度合いを正確に知るためには、太陽系誕生から間もない頃に保持されていた水の割合を正確に知る必要があります。
東京大学の飯塚毅氏を責任著者とする国際研究チームは、炭素質小惑星に分類される「リュウグウ」のサンプルを分析し、過去に保持していたであろう水の割合を検討しました。その結果、リュウグウの元となった母天体の岩石には、太陽系誕生から10億年以上後(今から35億6000万年前以降)までは大量の氷が含まれていたことを示す痕跡があることが分かりました。
この結果から、炭素質小惑星には従来の推定の2~3倍も多くの水が含まれていることが推定されます。この推定値の変更は、地球へ供給された水の量の推定だけでなく、時期や場所に対する知見にも影響を与えることになります。
リュウグウの母天体はどれくらい水を持っていた?

地球に存在する水や有機物は、それらを豊富に含む炭素質小惑星からもたらされたと考えられています。162173番小惑星「リュウグウ」も炭素質小惑星の1つです。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」はリュウグウの探査とサンプルリターンを実行しましたが、リュウグウの選定理由にはこのような背景もあります。
リュウグウのサンプルを分析すると、水が豊富に含まれています。ただしその水は、日常的にイメージする液体や固体の形では存在せず、大部分は鉱物の結晶の中に埋め込まれています。このような鉱物を「含水鉱物」と呼びますが、これは液体の水と岩石の化学反応で生成します。
含水鉱物があることや、現在のリュウグウが直径1km未満と小さなサイズであることから、リュウグウは以下のような歴史を辿ったと考えられています。
今から約46億年前(45億6700万年前)の太陽系誕生時、水が凍るくらい太陽から離れた場所で、リュウグウの素となる直径数十km以上の母天体が生成されました。母天体は主に岩石と氷で構成され、寿命の短い放射性同位体も含まれていました。そして、母天体の誕生から数百万年間は、放射性同位体の崩壊で熱が発生し、氷が溶けて液体の水となり、含水鉱物が生じる環境があったと考えられています。
その後、いつの時代なのかははっきりしていませんが、母天体は別の大きな天体(母天体の10分の1程度の直径)の衝突によって大きく砕けました。この時に飛び散った破片が集合して形成されたのが、現在のリュウグウであると考えられています。
このように、リュウグウの形成史はある程度判明していますが、まだ多くの謎があります。例えば、母天体に含まれていた氷はどうなったのでしょうか? 確かに、誕生から数百万年間は液体の水があったでしょうが、この熱源はすぐになくなってしまうため、再び凍り付いているでしょう。一方でリュウグウのサンプルには、含水鉱物以外の水がほとんど存在しません。これは、母天体と比べてリュウグウの方が太陽に近いことも関係しています。
この関係から、母天体が元々持っていた水の量を、リュウグウのサンプルだけで推定することは難しいことが分かります。
時計の狂いから水が流れた時代を推定
東京大学の飯塚毅氏などの研究チームは、この難しい課題に挑戦しました。飯塚氏らが行ったのは、母天体が誕生してからずっと後に液体の水が流れた痕跡を見つけることです。
研究チームが注目したのは「ルテチウム176」という放射性同位体です。これは、氷を溶かす熱源となるような放射性同位体とは異なり寿命が長く、372億年という長い半減期でハフニウム176へと変化します。
放射性同位体の崩壊は一定の割合で進行するため(※)、ルテチウム176の量がどれくらい減ったかを知ることができれば、ルテチウム176を含む物質がいつ形作られたのかを知る時計として使うことができます。
※…おさらいをすると、半減期は元の量の半分になる時間です。ルテチウム176の半減期は372億年のため、372億年後には元の量の2分の1、744億年後には元の量の4分の1……という具合に減っていきます。372億年と言えば現在の宇宙の年齢より長いですが、もちろんこの法則は372億年より短い時間でも適用されます。
ただし、リュウグウの母天体が形成されたのが約46億年前であることは、他の計測方法から推定されているため、改めてルテチウム176で年代測定を行っても、あまり意味を成しません。どちらかというと重要なのは、ルテチウム176によって時間を測った時、約46億年前ではない数字が出ることです。
固体のように物質が固まった後、熱や化学反応のような変質が起きていない場合、放射性同位体が減る唯一の原因は崩壊によるものですので、正確な時計として機能します。しかしもし、熱や化学反応を受けて放射性同位体が移動してしまえば、崩壊以外の理由で減ってしまうため、時計が狂ってしまうでしょう。
炭素質小惑星は従来の2~3倍も多くの水を含んでいる!

今回の研究で飯塚氏らは、リュウグウのサンプルに加え、炭素質小惑星に由来するとみられる6種類の隕石を対象に、ハフニウム176に対するルテチウム176の量を調べました。その結果、多くの隕石は約46億年前という数値が出たのに対し、リュウグウのサンプルと、「タギシュ湖隕石(Tagish Lake)」という隕石は約48億年前という数値が出ました。
もちろんこれは、リュウグウとタギシュ湖隕石の母天体が、太陽系よりさらに2億年前にできたことを示すものではありません。飯塚氏らは様々な可能性を検討した結果、ルテチウム176が水に溶けて流されてしまい、見かけ上の量が減ってしまった可能性を提示しました。
そして、見かけ上は2億年以上時計がズレていることから逆算すると、ルテチウム176を溶かした液体の水の発生源は、母天体の誕生から10億年以上後、今から35億6000万年前かそれよりも後の時代であると考えられます。

放射性同位体の崩壊熱によって氷が溶けていた期間はせいぜい誕生後の数百万年間であり、10億年以上後というのは説明が付きません。飯塚氏らは、母天体の誕生から10億年以上後に発生した液体の水は、母天体に別の天体が衝突し、再加熱されたことによって発生したと考えられています。
そして、液体の水の発生源には、含水鉱物の分解と、氷が溶けることの両方が考えられますが、リュウグウのサンプルには含水鉱物の分解の痕跡がないことから、氷が溶けたことが理由であると絞り込むことができます。
以上のことから飯塚氏らは、リュウグウの素となった母天体には相当な量の氷が含まれており、しかも10億年以上安定して保持するような環境にいたと主張しています。
次の謎: 大量の水はどこに行ったのか?
今回の研究結果は、炭素質小惑星がこれまで考えられていた以上に大量の水を保持していることを示しています。これは、地球に存在する水のうち、炭素質小惑星によって運ばれたものが、これまでの推定よりも多いことを示唆しています。
今回の研究結果からすると、炭素質小惑星は、重量にして20~30%にもなる、かなり “水浸し” な天体であることが推定されます。この水分量は、これまで考えられていた量の2~3倍にもなります。
ここまで大幅に水分量が増加すれば、その影響を無視することはできません。炭素質小惑星は、地球を作った物質全体の6%を占めていると推定されています。ここから計算すると、地球に供給された水の量は、地球自体の重さの1.2~1.8%、現在の海水の60~90倍にもなります。
当然ながら、現在の海水の何十倍もの水が、全て海にあるはずがありません。では、それほど大量の水はどこに消えてしまったのでしょう? 例えば、地球の地中深く、マントルや核の中に、水や水素の形で含まれているのかもしれません。あるいは、宇宙空間に逃げ出したものもあるでしょう。この謎を解くのが、次の研究課題となるでしょう。
ひとことコメント
炭素質小惑星が予想よりずっと “湿っている” ことは、地球の水の起源を考える上で非常に重要になってくるよ。(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Tsuyoshi Iizuka, et al. “Late fluid flow in a primitive asteroid revealed by Lu–Hf isotopes in Ryugu”.(Nature)
- “小惑星リュウグウの岩石は氷を十億年も持っていた! ―地球の材料天体に従来見積もりの2〜3倍の水があった可能性―”.(東京大学)










