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点火直後のM-35の噴射炎。「産声」は2分あまり響き渡った。(撮影:大貫剛)

2015年12月21日、秋田県能代市の宇宙航空研究開発機構(JAXA)能代ロケット実験場で、イプシロンロケットの新しい第2段「M-35」の地上テストが行われました。2号機以降のイプシロンロケットは、第2段にM-35を採用した「強化型イプシロンロケット」にアップグレードされます。実験後、イプシロンロケットプロジェクトチームの森田泰弘プロジェクトマネージャー(PM)は「見事な成功」と笑顔を見せました。

能代に響いたM-35の「産声」

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実験を見に訪れた能代の子どもの心にも、同じ「能代っ子」M-35の産声は刻まれただろうか。(撮影:大貫剛)


今回試験が行われたのは、強化型イプシロンロケットの第2段に使われる新型固体ロケット、M-35。2013年に打ち上げられた試験機に使われていたM-34cに比べて、固体燃料(推進薬)の量が10.7tから15tに増やされているなど、全く新規に設計されたものです。燃焼実験は市民にも開放され、平日の昼間ですが親子連れなどが実験を見守りました。

燃焼実験はロケットを横倒しにして、噴射炎を日本海へ向けるように行われるのですが、西風が吹くと煙が能代市の市街地へ流れてしまうので実験ができません。冬にもかかわらず、実験時刻は東の風2.5mと絶好のコンディション。これには森田PMも「神風のようだった」と喜びました。

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60秒前から秒読みが始まり、ゼロと同時にオレンジ色のまばゆく輝く噴射炎が噴き出しました。ロケット打ち上げと違い試験用のロケットはその場に固定されたまま、127秒間轟音を上げて噴射。見学場所で案内に当たった井元隆行サブマネージャは「第2段は宇宙へ飛び出してから使うものなので、燃焼の様子を見ることができるのは今回の試験だけです」と笑顔で話しました。

イプシロンロケットが打ち上げられる内之浦でも、真空の宇宙を飛ぶM-35の音は聞こえません。M-35が響かせた「産声」は、実験に来た人と能代市民だけの思い出となりました。

熟練の技を若手へ伝授

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イプシロンロケット試験機以来2年ぶりの記者会見に「緊張しました」と言いつつ笑顔の森田プロジェクトマネージャー(撮影:大貫剛)

能代での固体ロケット地上燃焼テストは2008年以来7年ぶり。全くの新型のテストは2001年以来、実に14年ぶりでした。このためイプシロンロケットプロジェクトチームは、能代ロケット実験場で数多くの実験を行ってきた熟練技術者の指導のもとで、若手技術者が自らアイデアを出して準備を行い、ノウハウを伝えながら人材を育てる体制がとられました。今回は冬季の試験で、試験設備の凍結を防止するための改良などが必要になりましたが、森田PMは、宇宙科学研究所助教の北川幸喜実験主任らが頑張って準備してくれたとねぎらいました。

実験では噴射中にノズルの向きを変える試験にも成功、データもしっかりと記録できたとのことです。今後はデータの分析が行われるほか、実験に使われたロケットも、製造された群馬県富岡市のIHIエアロスペース社工場へ送られて検査を受けます。

強化型イプシロンロケットは2016年度打ち上げ

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2013年に打ち上げられたイプシロンロケット試験機。2号機は2016年度を予定。(c)JAXA

今回実験が行われたM-35ロケットを第2段に採用することで、イプシロンロケットが打ち上げられる衛星は試験機の450kgから、2号機以降は590kgにアップします。(太陽同期軌道の場合)

また、2号機のフェアリング(衛星を保護するカバー)は試験機より衛星格納スペースが広くなり、より大きな衛星が搭載できるようになります。このほか、電子機器をより小型軽量な半導体機器に置き換えたり、各部を軽量化するなどの改良が施された2号機以降のイプシロンロケットは「強化型イプシロンロケット」と呼ばれています。

試験機で話題になった、搭載されたコンピュータがロケットをセルフチェックする自律点検システムももちろん、引き継がれます。システムには大きな変更はありませんが、自律点検システムは正常な状態のデータと比較することで点検を行うため、打ち上げ成功を繰り返すほどデータが蓄積され、点検精度がアップするとのことです。

「使いやすいロケット」を目指すイプシロンロケット。早くも大きくバージョンアップした2号機は2016年度、ジオスペース探査衛星(ERG)を鹿児島県内之浦から打ち上げる予定です。

※初出で森田プロジェクトマネージャーのお名前が間違っていたため訂正しました。失礼致しました。

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