米ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社は米国時間4月13日、新型ロケット「ヴァルカン」を発表した。新開発の再使用可能なメタン・エンジンや、長時間運用できる新型の第2段などを特長とし、2019年に初打ち上げが行われる予定だ。
ULA社は現在、軍事衛星や米航空宇宙局(NASA)の科学衛星などを打ち上げるための基幹ロケットとして、デルタIVとアトラスVを運用している。しかし両機ともコストが高く、またアトラスVは第1段にロシア製のロケット・エンジンを使用しており、昨今の米国とロシアの関係悪化により、今後の安定した入手に不安が生じている。ヴァルカンでは、機体の一部を再使用するなどしてコストを下げ、また機体やエンジンをすべて米国内で開発、生産することで、安価に、なおかつ高い信頼性と運用の確実性を持ったロケットになるという。
ヴァルカンの第1段にはBE-4というロケットエンジンを2基装備する。BE-4は液体酸素と液体メタンの組み合わせを使用し、2400kNの推力を出すことができる。最大の特長は再使用が可能な点で、打ち上げ後に第1段機体からエンジン部分だけが分離され、パラフォイルで降下、ヘリコプターによって空中で捕まえられ、回収される。そして整備が行われた後、また別の打ち上げで使用する、という流れが繰り返される。
BE-4の開発は、Amazon.comを立ち上げたジェフ・ベゾス氏によって立ち上げられた宇宙企業ブルー・オリジン社が担当する。また保険として、エアロジェット・ロケットダイン社が開発するAR1も選択肢として残されている。
第1段の周囲には固体ロケットブースターを装備することもできる。このブースターはアトラスVで使われているものから20%ほど推力を高めたもので、また装着本数も必要に応じて0本から6本まで変えることができる。
第2段にはアドヴァンスト・クライオジェニック・イヴォルヴド・ステージ(ACES)と呼ばれる、新規開発の機体が装備される。エンジンはまだ決まっていないが、第1段と同じブルー・オリジン社が開発しているBE-3Uというエンジンや、従来からアトラスやデルタで使われているRL10、もしくはXCOR社が開発している名称不明のエンジンが搭載できるとしている。装着数はどのエンジンを装備するか、またミッションによって変わるものの、1から4基になるとのことだ。さらに、米国のモータースポーツ「NASCAR」に参戦しているラウシュ・フェンウェイ・レーシングと協力し、推進剤から発生した水素ガスと酸素ガスを使い、タンクの加圧や発電、姿勢制御、エンジンの再点火を行う機構を開発するという。これにより、軌道上で運用可能な時間が数週間単位まで伸び、今までより複雑なミッションに使うことが可能になるとされる。
開発はまず第1段周りが優先され、2019年の初打ち上げではACESは使用されず、アトラスVの第2段であるセントールがそのまま搭載されるという。ACESは2023年の打ち上げから導入される見込みだ。
ヴァルカンという名前は、ローマ神話に登場する火の神である「ウルカーヌス」を英語読みしたものである。ただ、この名前は一般からのオンライン投票で選ばれたものであることからしても、SF作品『スター・トレック』に登場する、惑星や種族の名前である「ヴァルカン」にちなんだものでもあろう。
■Vulcan Rocket - America's Next Ride to Space - United Launch Alliance
http://www.ulalaunch.com/ula-unveils-americas-new-rocket-vulcan.aspx