ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社は3月12日、磁気圏観測衛星「MMS」を搭載した、「アトラスV」ロケットの打ち上げに成功した。MMSは4機の衛星から構成され、地球を取り巻く磁気圏の様子を探る。

ロケットは米東部標準時2015年3月12日22時44分(日本時間2015年3月13日11時44分)、米フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル空軍ステーションのSLC-41を離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げ約1時間30分後から4機の衛星が5分おきの間隔で分離され、軌道に投入された。

MMSは米航空宇宙局(NASA)のゴダート宇宙飛行センターで開発された衛星で、地球を取り巻く磁気圏を観測することを目指している。MMSとはMagnetospheric Multiscaleの略だ。

MMSは4機の同型の衛星が、正四面体を形作るような編隊で飛行することで構成されている。1機あたりは平べったい八角柱のような形をしており、搭載している観測機器なども同じである。直径は約3.4m、1機あたりの全高は約1.2mで、打ち上げ時の質量は1360kg。自ら回転することで姿勢を安定させるスピン安定方式を採用している。

軌道は大きく2種類が計画されており、まず最初の1年半の間は近地点高度2550km、遠地点高度7万0080kmの軌道を回り、その後の半年間は遠地点高度を15万2900kmまで上げて運用される予定だ。

打ち上げに使われたアトラスVは、ロッキード・マーティン社によって開発されたロケットで、ボーイング社のデルタIVロケットと共にULA社によって運用されている。ULA社はロッキード・マーティン社とボーイング社の共同出資で設立された、ロケット運用会社だ。

アトラスVは今回を含め、これまでに53機目が打ち上げられており、2007年に一度予定より低い軌道に衛星を投入してしまった以外は安定した成功を続けている。また今回で43機連続での成功ともなった。

今回の打ち上げに使われたのはアトラスV 421と呼ばれる構成で、これはフェアリングの直径が4m、固体ロケットブースターを2基装備し、セントール上段にRL10エンジンが1基、ということを示している。

アトラスVの第1段には、ロシアのNPOエネルゴマシュ社が製造したRD-180エンジンが使われており、このエンジンを巡っては米国の国内、またロシア側からも、その使用や輸出に関して揉めている状況が続いている。ロシアのロゴージン副首相は、軍事衛星の打ち上げにロシア製エンジンの使用を禁止することも匂わせており、今後、軍事衛星の打ち上げにアトラスVが使えなくなる可能性もある。ロゴージン副首相の発言後もRD-180は定期的に輸出されており、差し迫った状況にはないものの、現在米国では国産の代替エンジンを開発する動きが始まっている。

今回のアトラスVの第2段には、RL10Aロケットエンジンが使用された。RL10は米国で50年以上使われて続けているロケット・エンジンのシリーズで、これまで数多くの人工衛星や惑星探査機などを打ち上げ続けてきた傑作エンジンである。推進剤には液体水素と液体酸素が用いられ、複数回点火できる能力を持ち、衛星をさまざまな軌道に、かつ正確に送り込むことが可能だ。

また前回、前々回の打ち上げでは、RL10Aより新しいRL10C-1と呼ばれるエンジンが使用された。RL10C-1は、デルタIVロケット向けに生産されたものの在庫が余ってしまっているRL10Bエンジンを、アトラスVで使用できるように改造したものだ。例えば炭素繊維強化炭素複合材料を使ったノズルや、燃焼室やインジェクターなどはRL10Bのものが使われている。一方、ターボ・ポンプはRL10Aのものが用いられており、またRL10AにあってRL10Bにはない、点火システムの冗長化や、推進剤の混合比率を制御するための電子機器の搭載といった改造も施されている。RL10Cはいわば、RL1AとRL10Bを混ぜ合わせたようなエンジンだ。さらに、軌道上で運用できる時間も、従来の720秒から2000秒まで、3倍弱ほどにまで向上している。

なお、アトラスVには、第2段にエンジンを2基並べて搭載する(xx2)構成があるが、RL10C-1はノズルの直径が大きいため、並べて搭載することができない。したがってxx2構成のアトラスVは、今後もRL10Aを使い続けることになる。

また、RL10C-1をさらにデルタIVロケット向けに改造したRL10C-2も開発中で、数年のうちにデビューする予定となっている。

次回、打ち上げが予定されているULA社のロケットは、3月25日に予定されているGPS IIF-9を搭載したデルタIVロケットの予定だ。

 

■Atlas V Launches NASA's MMS Mission - United Launch Alliance
http://www.ulalaunch.com/ula-successfully-launches-nasa-mms.aspx