月から探査機を帰還させる技術を試験するために打ち上げられた嫦娥五号の試験機が、11月1日に地球に帰還する。試験機は28日に月でUターンし、現在は一路、地球に向かって航行している。大気圏再突入時の速度は秒速10.9kmにもなり、帰還カプセルが高温に耐えることができるかが鍵となる。

この試験機は10月24日、西昌衛星発射センターから長征三号丙改二型ロケットに搭載されて打ち上げられた。打ち上げ後、試験機は月の軌道とほぼ同じ高度にまで上げる大きな楕円軌道に投入され、軌道補正を行いつつ、一路月へ向けて航行を始めた。

そして10月28日の夜に月に最接近し、裏側を回り、今度は地球へ向けて進路を取った。こうした軌道は自由帰還軌道(Free return trajectory)と呼ばれるもので、軌道補正などの細かいものを除けば、エネルギーを使うことなく地球と月との間を往復することができる。過去にソヴィエトのゾーント計画でも同様のミッションが行われた他、またアポロ計画でも、ミッション中に事故などが発生した際に、月周回軌道への投入や月への着陸を行わずに帰還するための軌道として設定されており、実際にアポロ13ミッションで使用されたことは有名だ。

試験機は11月1日に地球の大気圏に再突入する予定とされる。大気圏再突入時のその際のスピードは、第二宇宙速度(秒速約11.2km)に近い、秒速10.9kmにもなる。着陸場所は内モンゴル自治区の中部、有人宇宙船「神舟」がいつも着陸している場所とされる。着陸時刻はまだ発表されていないが、宇宙開発に詳しいzarya.infoのRobert Christy氏によれば、当該地域には、日本時間2014年11月1日7時19分から49分までのNOTAMが発行されているとのことだ。

中国はこれまでフィルム回収式の偵察衛星や、有人宇宙船「神舟」で、第1宇宙速度からの再突入経験は豊富にあるが、これほどの速い速度で行った経験はない。試験機に搭載された帰還カプセルが、今回の再突入の際の高温に耐えることができるかが、このミッションの最大の山場となる。

中国は長期的な月探査計画を持っており、またミッションの目的に応じて、その内容は大きく3段階に分かれている。その第1期は月軌道の周回、第2期では月面への着陸、そして第3期は月からの帰還を実施する。第1期は嫦娥一号と嫦娥二号の成功によって完了し、第2期も嫦娥三号が成功し、現在も着陸機と探査車の両方が活動中だ。また現在、同型機の嫦娥四号が計画されている。

そして第3期として、2017年に月からの砂の回収(サンプル・リターン)を目指す探査機「嫦娥五号」を打ち上げる計画を持っており、今回の試験機はその前哨戦として、地球と月との往復航行を行う技術や、帰還カプセルを高速で大気圏に再突入させ、無事に着陸させる技術などの獲得を狙っている。

公開されている想像図によれば、試験機は通常の人工衛星に帰還カプセルがくっ付いたような姿をしている。その通常の人工衛星のような部分は「嫦娥一号」、「嫦娥二号」と同じ、通信衛星「東方紅三号」の衛星バスが使われているようで、電力供給や通信などを司っていると思われる。また帰還カプセルは、試験時に撮影された写真から、有人宇宙船「神舟」のものを縮小したような形をしていることが分かっている。

また、いくつかの報道によれば、カプセル内には細菌などの生物が搭載されるとされる。ヴァン・アレン帯の外の、高い放射線環境で生物がどのような影響を受けるかを実験し、将来の有人月探査の研究に役立てる狙いがあるとみられる。

なお、打ち上げに使われた長征三号丙改二型ロケットの第3段も、試験機とほぼ同じ軌道に乗っており、やはり月の裏側を回り、地球へと帰ってくる。それを利用して、第3段にはルクセンブルクの宇宙企業Luxspace社が開発した4M(Manfred Memorial Moon Mission)と呼ばれる、質量14kgほどのビーコンを発信する装置が搭載されている。

試験機と同様、第3段とこの装置も地球へ再突入する見込みだ。ただし第3段は軌道修正を行えないため、約10%ほどの確率で、大気圏に跳ね返され、別の軌道に乗る可能性もあるという。

 

■探月工程三期再入返回飞行试验任务专题报道
http://zhuanti.spacechina.com/n763863/index.html