-PR-

三菱重工業株式会社は10月7日、気象庁の静止気象衛星「ひまわり8号」を搭載したH-IIAロケットの打ち上げに成功した。ひまわりの花言葉は「私の目はあなただけを見つめる」。その言葉の通り、「ひまわり8号」はその高性能センサーの目で、アジア・太平洋地域の天気や地球環境を見つめる。

ロケットは2014年10月7日14時16分00秒、鹿児島県の種子島にある種子島宇宙センターの吉信第1射点から離昇した。ロケットは固体ロケット・ブースター(SRB-A)や第1段を次々に分離しつつ順調に飛行し、離昇から約28分後に「ひまわり8号」を分離した。

10月5日には台風18号が種子島を直撃したが、それによる遅れを出すことなく、当初の予定通り日時での打ち上げとなった。

打ち上げ後、米国の宇宙監視ネットワークは、近地点高度約250km、遠地点高度約35880km、傾斜角22.38度の軌道に、2つの物体が追加されたことを確認している。これは事前に予告されていた数値とほとんど一緒である。

打ち上げを担当した三菱重工の二村幸基氏(同社防衛・宇宙ドメイン宇宙事業部 技監・技師長)は、打ち上げ後の記者会見で「詳しくは評価待ちだが、『ぴったり』の軌道に入れることができた」と、自信にあふれた表情で語った。

今後「ひまわり8号」は、自身のスラスターを用いて目的地である東経140度の静止軌道へ向けて移動する。静止軌道に入るのは約10日後とのことだ。その後、観測機器などの確認を行い、12月にも最初の画像が取得され、公開される予定だ。そして2015年1月から衛星と地上施設とを結んだ状態での全体システムの試験が行われ、2015年夏ごろに「ひまわり7号」から気象観測任務のバトンタッチが行われる予定となっている。

「ひまわり8号」は気象庁が保有する気象観測衛星で、現在天気予報などで活躍している「ひまわり6号」、「ひまわり7号」の後継機となる。

-PR-

最大の特徴は、世界最先端の能力を持つ可視赤外放射計「AHI(Advanced Himawari Imager)」が搭載されている点だ。これは現在運用されている「ひまわり6号」、「同7号」に搭載されている可視赤外放射計と比べて高性能で、より詳しく雲の様子を観測することが可能となっている。

AHIは米エクセリス(Exelis)社で製造されたもので、それを輸入し、「ひまわり8号」に搭載された。同社は、米国の次期静止気象衛星GOES-Rシリーズ(2016年以降打ち上げ予定)に搭載予定の可視赤外放射計「ABI(Advanced Baseline Imager)」の製造も行っており、AHIとABIとは、ほぼ同等の機能を持っているという。

このAHIの搭載により、「ひまわり8号」は、6号、7号から大きく3つの点で進化を遂げている。

まず、画像の解像度が約2倍になったことだ。詳しくいうと、6号、7号では可視域の分解能が1km、赤外域で4kmだったが、8号、9号では可視域が0.5km、赤外域が2kmにまで向上した。

そして観測できる種別(チャンネル)が約3倍に増えた。6号、7号では可視域では1チャンネルの、それも白黒画像しか撮影できず、赤外域も4チャンネルだったが、8号、9号では可視域が3チャンネルに増やされカラー画像が撮影できるようになり、赤外域も13チャンネルまで増えている。

そして、6号、7号では約30分かかっていた衛星から見える全範囲の観測を、10分ごとにまで短縮でき、さらに地域を限定すれば、2.5分ごとでの観測も可能だ。

これらの進化によって、雲の移動や発達の様子をこれまでよりも詳しく観測できるようになり、また火山灰の分布も詳しく把握できるようになるという。また、風や気温などの時間変化をコンピューターで計算して将来の大気の状態を予測する数値予報でも、「ひまわり8号」で得られたデータは大いに役立つとのことだ。

気象庁の藤村氏(同庁観測部長)は打ち上げ後の記者会見で「最近起こっているような局地的な、短期間で起こる雨については、ひとつの積乱雲の発生から発達までが1時間程度のサイクルで起こる中で、(ひまわり6号、7号の)30分ごとの観測では不十分であったと思う。それが2.5分ごとの観測ができるようになることで、迅速な把握、発達の状況の監視が可能になると思う。ぜひ現場でも生かしていきたい」と、その期待を語った。

「ひまわり8号」の製造は三菱電機が担当した。打ち上げ時の質量は約3,500kgで、東経約140度の静止軌道で運用される。設計寿命は観測機器が8年以上、衛星本体は15年以上と見込まれている。運用は気象庁が担当するが、衛星からのデータを受信したりといった実際の管制業務は、新たに設立された気象衛星ひまわり運用事業株式会社(HOPE)が担当する。これは運用コストの削減を目指して、民間に事業を委託するPFI(Private Finance Initiative)が採られたためだ。

「ひまわり8号」は今後、静止軌道に入り、観測機器などの確認を行い、12月にも最初の画像を取得し、公開される予定だ。そして2015年1月から衛星と地上施設とを結んだ状態での全体システムの試験が行われ、2015年夏ごろに「ひまわり7号」から気象観測任務のバトンタッチが行われる予定となっている。その後7号は8号のバックアップとして待機し、また現在7号のバックアップに就いている「ひまわり6号」は、2015年中に運用を終える予定だ。

そして2016年度には「ひまわり8号」の同型機である「ひまわり9号」の打ち上げが予定されており、静止軌道にたどり着き、機能チェックなどを経た後に、8号のバックアップとして、7号と代わり待機する。そして2022年からは立場が入れ替わり、9号がメイン、8号がバックアップとなる予定だ。

「ひまわり8号」と「ひまわり9号」は、気象庁単独の資金で開発された初の衛星となる。「ひまわり」の1号と2号機は科学技術試験衛星、また3号機から5号は科学技術衛星という扱いだったため、科学技術庁が費用のすべて、もしくはかなりの額を負担していた。また6号と7号は航空保安システム機器を搭載した運輸多目的衛星だったため、国土交通省航空局が約70%を負担した。

8号、9号でも、運輸多目的衛星のように、他ミッションとの複合衛星にすることが検討されたが、相手が見つからなかった。しかしその一方で6号と7号の寿命が近づきつつあったこともあり、最終的に気象庁が全額負担して開発されることとなった。

8号と9号の打ち上げは約2年ほど間隔が開くことになるが、その間のバックアップは7号が務めることになっている。ただし7号は2006年に打ち上げられ、設計寿命は10年であることから、2016年初頭にも、寿命を迎えることになる。7号から9号へ、無事バックアップ任務が引き継げるかは今後の課題だ。

気象庁の森氏(同庁気象衛星課 課長)は「『ひまわり7号』がバックアップとしてしっかりしている間に、2016年度に『ひまわり9号』をきちんと打ち上げ、さらに静止気象衛星観測の継続を磐石にすることが重要だ」と、打ち上げ後の記者会見で語った。

 

■三菱重工|H-IIAロケット25号機による静止気象衛星「ひまわり8号」(Himawari-8)の打上げ結果について
http://www.mhi.co.jp/notice/notice_20141007.html

-ads-

-ads-