ロシア連邦宇宙局(ロスコスモス)、フルーニチェフ社は9月27日、人工衛星ルーチを搭載した、プロトンM/ブリーズMロケットの打ち上げに成功した。プロトンMは今年5月、打ち上げに失敗しており、今回まで飛行停止状態にあった。
ロケットは現地時間2014年9月28日2時23分(日本時間2014年9月28日5時23分)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地の81/24発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約9時間後の14時26分(日本時間)に、ルーチを静止軌道(厳密にはドリフト軌道と呼ばれる)に直接投入した。
ルーチは、ロシア連邦政府機関の人工衛星であるということ以外に、公式に明らかにされている情報はない。ノーボスチ・ロシア通信によれば、衛星を製造したのはISSレシェトニェーフ社で、またロスコスモス筋の情報によれば、ロシアの全地球測位システムGLONASSの精度を向上させる信号を発する衛星だという。
一方、ロシアのコメルサント紙の報道によれば、ルーチはデータ中継を行う通信衛星と、レーダーやミサイルの誘導電波などの電磁波を傍受し、情報収集を行う、いわゆるELINT衛星の、2つの役割を担っているとされる。また、このELINTミッションはロシア連邦保安庁(FSB)によって運用され、ミッション名と、ミッション機器の名前はオリーンプであるとされる。
なお、ルーチという名前の衛星は、1985年から1994年までに4機が打ち上げられており、近年もルーチ5Aや5B、5Vといった後続機が打ち上げられている。今回打ち上げられた衛星に、改めて単なるルーチという、通し番号のない名前を付けるというのはいささか奇妙な話だが、カモフラージュの意味があるのかもしれない。
またオリーンプの正体は軍用のデータ中継衛星であるという説もあり、結局のところ今の段階では何もはっきりとしたことは分かっていない。ただ、ここ数年でもっとも機密性の高い、つまりロシアにとって、できるかぎり正体を隠し続けたい衛星であることは確かだろう。
ちなみにルーチ(Луч)は「光線」などの意味で、オリーンプ(Олимп)はオリュンポス十二神が住まうとされるギリシャのオリンポス山が由来とのことだ。
今回のプロトンMの打ち上げは、今年5月の失敗以来、初となるものであった。
この失敗は5月16日に起きたもので、通信衛星エクスプレースAM4Rを搭載して打ち上げられるも、ロケットの第3段に問題が発生し、軌道速度を出せず、ロケットと衛星は大気圏に再突入し、燃え尽きている。その後の調査で、第3段に4基装備されているヴァーニア・エンジンRD-0214の、ターボ・ポンプのベアリングが破損したためであると見られている。RD-0214は、第3段のステアリング(舵取り)を司っている。
なぜベアリングが破損したのか、については明らかにされていないが、ロスコスモスは品質管理や検査体制の改善を命じたと伝えられている。また、以前に起きた失敗も、仕様書通りの部品が使われていなかったり、部品の取り付け方を間違えたり、バルブに異物が混入していたり、さらには推進剤を入れすぎるなどといったミスが原因であるとされており、今回もそうしたことが原因である可能性は強い。
この10年に限っても、プロトンMは94機中9機の打ち上げに失敗しており、打ち上げ成功率は90%ほどと、現代のロケットにしては低い。また、ほぼ月に1機のペースで打ち上げられていること、これまでプロトン・ロケットは400機近く打ち上げられていることを考えると、この数字はかなり低いものだと言えよう。
プロトンMは、今年中にあと2機の打ち上げが計画されている。今後、連続で成功を続けることができるかが課題となろう。
しかし、プロトンMを使った商業打ち上げを担っているインターナショナル・ローンチ・サービシズ(ILS)社は、すでに職員数を削減するなどし、プロトンMの打ち上げ需要や、顧客からの評価が、以前ほど回復することはないと見ているようだ。
ロシアでは数年前から改善に向けた努力が続けられてはいると伝えられるが、プロトン・ロケットのみならず、他のロケットや衛星、宇宙船でも問題は頻出しており、ロシアの宇宙開発が復活する兆しは見えない。
■Космический аппарат «Луч» выведен на расчетную орбиту
http://www.federalspace.ru/20961/