米航空宇宙局(NASA)は8月27日、検討と設計を進めていたスペース・ローンチ・システム(SLS)の開発を、正式に決定したと発表した。SLSは史上もっとも強力な打ち上げ能力を持つロケットで、小惑星や火星への有人飛行が可能となる。実現にはまだ課題は多いが、NASAは人類未踏の地に向け、ルビコン川を渡ったことになる。

この決定は、キー・ディシジョン・ポイントC(Key Decision Point C、重要な決定点C)と呼ばれている調査の後に下された。決定事項を正確に言えば「SLSの70tバージョンの開発のため、2014年2月から計算して計70億2,100万ドルの予算を投じる。そして最初の打ち上げ日は2018年11月以降とする」ということになる。

発表に際して、NASAのチャールズ・ボウルデン長官は「私たちは火星へ通じる科学と有人探査の旅を歩んでいます。そして私たちは、我々を火星に連れて行くためのロケットやその他のシステムを造り上げることを、強く約束します」と延べた。

SLSは、打ち上げ能力70tのロケットと、130tのロケットの大きく2種類が開発される。まず最初に開発されるのは70t構成の機体で、大型の無人探査機を火星や小惑星に送ったり、宇宙飛行士を乗せたオリオン宇宙船を地球低軌道や月、地球近傍小惑星に送り込むことが可能になる。2030年ごろには130t構成の機体がデビューする予定で、いよいよ火星や小惑星への有人着陸が視野に入る。130t構成が実現すれば、史上最大の打ち上げ能力を持つロケットになる。

SLSのコア・ステージと呼ばれる第1段部分は、基本的にはスペースシャトルの外部タンク(ET)を流用し、改修されたものが用いられる。ロケットエンジンもスペースシャトルに使われていたRS-25Dが装備される。その両脇には、やはりスペースシャトルで使われていた固体ロケット・ブースター(SRB)を流用、セグメント数を増やしたものを装備する。

コア・ステージの上部には、ミッションの目的や打ち上げるものの大きさ、質量に応じて用意された、何種類かの上段を搭載する。これらのバリエーションはそれぞれブロックIやブロックIAといった呼び名が付けられており、さらに有人宇宙船を搭載する型や、貨物のみを搭載する型にも分かれている。また第1段のエンジンは、いずれは設計を簡略化したRS-25Eに切り替えられるといった発展を予定している。SRBも、いずれは液体燃料ロケットを使ったブースターに切り替えられることが計画されている。

現在、すでにSLSの初期バージョンを造るための要素は整いつつある。例えばロケットとオリオン宇宙船との結合に使われるアダプターはすでに開発が終わっており、今年12月に予定されているデルタIVヘビー・ロケットによるオリオン宇宙船の初打ち上げで同じものが使われる。またSLSの飛行4回分に当たる16基のRS-25ロケット・エンジンは、すでにNASAステニス宇宙センターにあり、この秋から始まる燃焼試験を待っている段階だ。SLSの両脇に装備される5セグメントの固体ロケット・ブースターも、ATK社による燃焼試験が行われている。

SLSは次に、最終設計審査が待ち構えている。それを越えればいよいよ1号機の生産が開始される。予定通りに計画が進めば、2018年11月に無人のオリオン宇宙船を載せた1号機を打ち上げ、試験飛行が行われる予定だ。またその2年後には有人のオリオン宇宙船の打ち上げがあり、そして2030年代までに、火星への有人飛行が実現する計画となっている。

だが、NASAは、SLSを開発するために必要な予算は持っているが、しかし実際に使用するための予算はまだ与えられていない。つまり今のところは、2030年代に火星へ行くという構想は夢物語でしかない。

 

■NASA Completes Key Review of World’s Most Powerful Rocket in Support of Journey to Mars | NASA
http://www.nasa.gov/press/2014/august/nasa-completes-key-review-of-world-s-most-powerful-rocket-in-support-of-journey-to/#.U_8U02PSltY