インド宇宙研究機関(ISRO)は5日、火星探査機マーズ・オービター・ミッション(MOM)を搭載したPSLV-C25ロケットを打ち上げた。MOMはインド初の火星探査機であり、また月より遠くへ宇宙機を送り込むのも初となる。これから約11ヶ月に渡る、過酷な航海に挑む。

MOMを搭載したPSLV-C25ロケットは、インド標準時11月5日14時38分(日本時間同日18時8分)、サティシュ・ダワン宇宙センターの第一発射台(FLP)から離昇した。ロケットは順調に飛行し、離昇から約44分後にMOMを所定の軌道へと投入した。

MOMはISROによって開発された火星探査機で、インドにとっては火星へはもちろん、月より遠くの宇宙空間へ探査機を飛ばすのも初めてとなる。月へは2008年にチャンドラヤーン1という探査機を送り込み運用した経験があり、MOMはそのチャンドラヤーン1の開発、運用から得られた知見が大いに活かされている。

そのような背景から、MOMは深宇宙探査での宇宙機の運用技術を獲得することを主目的とした機体として開発された。探査機の衛星バス(衛星の筐体)には通信衛星や測位衛星にも使われたことのあるI-1Kと呼ばれる衛星バスを基に構築されており、スラスターや通信機器なども既存のものに改修が加えられたものが用いられている。火星までの航行に各機器が耐えられるか、火星周回軌道への投入時に計画通りスラスター噴射が行えるか、どれをとってもインドにとっては大きな挑戦となる。

一方で科学観測がないがしろにされているわけではなく、メタンの検出を目指したMSM(Methane Sensor For Mars)と呼ばれるセンサーをはじめ、5種類の観測機器が搭載されており、火星の地表から大気までの幅広い範囲に渡る観測が行われる。またNASAの火星探査機と連携した観測も行われる。特にメタンに関しては、これまでの探査機による探査によって火星大気中にその存在が確認され、生命活動がある証拠ではと期待されていたが、つい先ごろ、NASAのキュリオシティによる観測では検出されなかったと発表されたこともあり、MOMによる観測結果が注目されるところであろう。

現在探査機は、近地点高度250km、遠地点高度23,500kmの軌道に乗っているが、今後5回に分けて徐々に軌道を上げ、最後の1回の噴射によって火星へと向かう軌道へ移行、約11ヶ月後の2014年9月24日に火星に到着する予定となっている。火星到着後は、火星にもっとも近い高度が365.3km、もっとも遠い高度が80,000km、傾斜角が150度の軌道を回り、6ヶ月から最大で10ヶ月に及ぶ探査を行う予定だ。

MOMをめぐっては、とりわけその開発費の安さと、開発期間の短さが注目されている。開発費は約45億4000万インドルピー(日本円で約70億円)、またインド政府によって開発が承認されたのは2012年の8月であり、もちろん先行して研究・開発は行われていたであろうが、わずか2年2ヶ月ほどで打ち上げにこぎつけたことになり、MOMは史上もっとも安価かつ、短期間で造られた火星探査機であろう。

またMOMは、インドと中国との宇宙開発競争においても重要な意味を持つ。中国はこれまでに、月へ2機の探査機を飛ばし、有人宇宙飛行も成し遂げているが、方やインドは、月探査機は1機のみ、、有人宇宙船もまだ構想段階に過ぎない。またロケットや衛星に関しては、中国はインドどころか、世界の中でも極めて高い技術を持っている。その中国は2011年に、ロシアの探査機フォボス・グルントに同乗する形で火星探査機「蛍火一号」を送り出したが、フォボス・グルントに不具合が発生し地球軌道から脱出できず、失敗に終わっている。もしMOMが無事に火星に到達できたなら、インドは初めて、宇宙開発の分野で一つ、中国を出し抜けることになる。

多くの貧困者を抱えるインドにとって、宇宙開発、とりわけ宇宙科学分野へ投資することへの批判は少なくない。MOMの成功によって、そうした批判を封じ込められるばかりか、中国と対等に渡り合えるだけの国力があるという国威発揚にもなり、またその活力は他の国内問題の解決にも活用できると、インド政府は期待しているようだ。

また、今年はもう1機、NASAのメイブンと呼ばれる探査機が11月18日打ち上げられる予定となっている。また2016年には同じくNASAのインサイトが、また欧州とロシアの共同計画であるエクソマーズは、2016年に火星周回機と着陸機の技術実証機、2018年に着陸機と探査車をそれぞれ打ち上げられる予定だ。

 

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